「若年性アルツハイマーの母と生きる」

卒業生の岩佐まりさんが書いた、「若年性アルツハイマーの母と生きる」という本を出版されました。卒業生の本が出版されたというよりは、本の著者が湘南ケアカレッジを卒業されたというのが本当のところです。筆記テストが終わったあと、「私が書いた本がおととい出版されましたので、よかったらどうぞ」と手渡された本を見てみると、表紙には岩佐さんとお母さまの素敵な写真が。お母さまの介護をされていることは研修中にも聞いていましたが、まさか本まで書かれているとは。最後までだまっているなんてイジワルですね(笑)。でも正直に、とても嬉しく思いました。なぜって、岩佐さんの表情がとても輝いていたから。そしてその想いは、本を読み進めるうちに、さらに深まっていきました。


お母さまに小さなもの忘れが始まったのは55歳の頃。娘のまりさんはまだ20歳。その頃はまだ若年性アルツハイマーについての情報が世の中にも乏しく、次第にもの忘れが激しくなり、家電の使い方や料理の手順があいまいになる母を心配しつつも、自らは舞台女優を目指して上京して奮闘する日々を過ごしていました。まりさんが23歳のとき、ついにもの忘れ外来で「アルツハイマー型軽度認知障害」と診断されます。その後も症状は進行し、お父さまの介護疲れもピークに達し、まりさんが29歳にった頃から母娘の二人三脚のシングル介護が始まりました。

 

こういう話になると、お母さまを献身的に介護するのは素晴らしいとか、また一方では自分の人生を大切にするべきだという声が上がると思いますが、この本を読むと、どちらが正しい選択という一元論ではないことが分かります。施設等に完全に預けるという選択もあるし、岩佐さんのように在宅を中心として介護するという選択もある。岩佐さんは何かを犠牲にしているわけではなく、あとがきにもあるように「後悔しないようにやりたいことをやっている」のです。母を引き取り、働きながら介護し、私たちの想像を絶するような大変さがあると思いますが、それでも「ボケても大好きな母と一緒にいられることが私の幸せ」だと言い切ります。たとえどんな選択だとしても、後悔しないようにやりたいことをやった先にこそ、明るい未来が待っていると私は信じています。

 

本の内容は実に詳細で、シングル介護の日常のちょっとしたことがつぶさに書かれています。岩佐さん自身、かなり勉強されているからだと思いますが、母の認知症と向き合うことで得た介護の経験や工夫は、湘南ケアカレッジの生徒さんたちとも共有したいぐらいです。入浴や食事の介助を描いたシーンなどは、私たちにとっても勉強になります。最も苦労しているという入浴介助について書かれた部分を少し引用しますね。


その暴言が最も多くなるのが入浴介助。

ず「やめて、触らんといて!」と怒られながらも、聞こえなかったかのように受け流します。「お母さん、お風呂に入りますよ!」と優しくなだめ、やっとのことで服を脱がせてお風呂場へ。


シャンプーも最初はものすごく嫌がっていたため、何がイヤなんだろうと考えて、まず「お湯の温度が冷たいのかな」と温度を上げても、「熱い?」と下げてみても、

「何するんだよ!」と不機嫌に。


温度でないならお湯のかけ方なのかと思って水量を調整しても、不機嫌は変わらずです。

 

そこである時、「頭にお湯をかける時に、急にかけられるのがイヤなのかも」と考えて「今から頭にお湯かけるからな、行くで!」と声をかけるようにしたところ、母がお湯を待つ体勢になりおとなしく洗ってくれるように。


「そうか、いきなりお湯が来るからびっくりしてたんだ!」とわかった時は、思わずガッツポーズです。



おむつに関しても、できるだけ使わずに自然な形でと心がけられていて、湘南ケアカレッジで伝えていることと一致します。また、介護と自身の仕事との両立、そして恋愛・結婚についても赤裸々に書かれていて共感が持てます。著者の「あるがままに受け入れる」、「深刻になりすぎない」、「がんばりすぎない」という言葉は、同じく家族を介護している人々の心に響くはずですし、貴重なアドバイスにもなるはずです。そういえば、岩佐さんは実技のテスト満点でしたね、さすが!

 

そして何よりも、子からの無償の愛情を感じることができるお母さまが羨ましく思います。私にも息子がいますが、親子の間の愛情は、どちらかというと親から子への一方通行であると思っていましたので、こうした形の愛情を身近に感じることができて嬉しいです。これからの社会において、この本はたくさんの人々に読まれるべきですし、岩佐さんは自身の経験や想いを届ける大きな役割を担っていくのだと思います。

★岩佐まりさんのブログはこちら

お母さまへの愛情一杯の介護の日々が綴られています。