「明日の記憶」

来週の土曜日(5月25日)から公開される、堤幸彦監督の「くちづけ」いう知的障害をテーマに扱った映画や、介護職員初任者研修の授業の中で人間の記憶に関する話を聞いているうちに、「明日の記憶」(堤監督)が改めて観たくなりました。今から7年前の2006年に公開された映画ですが、今でもその場面場面を思い出せるほど、印象深い作品でした。


主演の渡辺謙が演じるのは、若年性アルツハイマー病を発症した49歳のやり手営業マン。ある日、突然に物忘れが激しくなり、幻覚や眩暈などに襲われます。忘れ難い場面のひとつに、絶対に遅れてはならない取引先との打ち合わせに向かう途中、場所が分からなくなってしまうシーンがあります。部下の女性に携帯電話で指示してもらいながら、渋谷の街を駆けずり回り、必死の形相で目的地にたどり着こうとする姿に、この病気の恐ろしさが現れていました。

 

「介護職員初任者研修」の中でもお伝えしますが、代表的な認知症は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)の4つがあります。その中のひとつであるアルツハイマー病とは、脳の神経細胞が次第に脱落し、脳が萎縮していく病気です。主な症状としては、失見当(時間や季節、場所の見当がつかない状態)が起こること。言語面より、行動面での失敗が多くなるなどが挙げられます。

 

若年性アルツハイマー病とは、それらの症状が64歳以下の比較的若い年齢で現れます。人生において、とても大きな役割を担っている時期に突然発症するので、家庭生活や社会生活に対する影響も大きく、また進行も早いため、この映画の主人公のように否定や混乱、そして家族にとっても大きな苦悩が訪れます。「俺が俺じゃなくなってもいいのか?」と妻に聞く主人公の心境が痛いほど分かります。

 

最後のシーンで、主人公は最愛の妻のことすら忘れてしまいます。「お名前は?」と尋ねる夫に驚きつつも受け入れ、まるで2人が初めて出会ったときのような時間を過ごすのです。それは輪廻転生のようで、悲しくも大切な時間です。普通に過ごしていたら決して訪れなかった時間を二人は再び味わいながら、長い長い吊り橋を未来へ向かって渡っていくのでした。