変わってゆく

「介護職員初任者研修」には人を変える力があります。生徒さんたちはそれぞれに、「癒された」、「人生観が変わった」、「貴重な体験だった」などと表現してくれますが、私たちから見ると生徒さんたちが大きく変わっているのです。たった15日間の研修で介護について学ぶ中で、なぜ目に見えるほど人が変化するのでしょうか。それは熱い想いを持った先生であったり、暖かく接してくれる仲間であったり、その他もろもろ、全てひっくるめて「介護職員初任者研修」のコンテンツ(内容)なのです。

 

たとえば、精神的な病を患っていたことがあり、15日間きちんと出席できるか心配していたのに、実際に参加してみたら一度も症状が出ることなく、むしろ気持ちが楽になったという生徒さんがいらっしゃいました。それまではふさぎ込むような生活をしていたのに、教室に通ってからは周りのクラスメイトと次第に打ち解け合い、誰かをサポートするための知識や技術を、身体を動かしながら学んでいくにつれ、自分自身が少しずつ解放されていったそうです。それで完治するほど簡単な病ではありませんが、学校に来て癒されたと言ってくれました。

 

その生徒さんは、見た目にも変化が起こりました。初日は、マスクをつけて暗い表情で登校してきました。マスクを付けるのは、風邪を引いていたり、その予防ということもあるのでしょうが、基本的には顔や表情をマスクで隠すことで安心できるという、コミュニケーションに対する防衛本能です。しかし、いつの日からか、その生徒さんはマスクをせず、明るい顔で教室に入ってくるようになりました。授業でも少しずつ笑顔が出始め、最後のほうに差し掛かるにつれ、実に自然な表情になってゆきます。

 

アラスカの地を冒険した写真家である星野道夫さんによる、こんな詩があります。

 

「いつか、ある人にこんなことを聞かされたことがあるんだ。

たとえば、アラスカのこんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。

もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」

「写真に撮るか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いて見せるか、いや、やっぱり言葉で伝えたらいいのかな。」

「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって。

・・・・その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって。」

 

(「オーロラの彼方へ」星野道夫 PHP

 


上の生徒さんだけではなく、目を見て元気に挨拶をしてくれるようになった生徒さん、マニキュアを落として実技に臨んでくれるようになった生徒さん、遅刻がちだったのに時間通り来るようになった生徒さんなどなど、その生徒さんたちの心が変わったことが外見に現われてきたということです。そんな生徒さんたちの変化を見ると、この研修をやって良かった、この学校をやって良かったと素直に思います。介護職員初任者研修の素晴らしさを伝えるのに、生徒さんたちが変わってくれる以上のことはないのです。