「大人はどうして働くの?」

「子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?」、「生きる力ってなんですか?」に次ぐシリーズ第3弾。介護や福祉とは直接の関係はありませんが、ここまで来たら最後まで付き合ってみたいと思います。というよりも、私自身が子どもの教育にたずさわっていたこともあり、こういう未来に向けたテーマを考えることが好きなのだと思います。子どもたちに向けて答えるために、自ら考えることは、結局のところ、自分はどう生きるべきかという問いにつながります。たとえば、今回の「大人はどうして働くの?」も、私たちにとって働くとは何か、そしてどう働いていくべきかについて考え、それを体現していくことに他ならないのです。


このシリーズの面白いところは、同じテーマについてあらゆるジャンルの一流の専門家が書くことで、様々な見方が知れるということだけでなく、それまで名前すら知らなかった人の考え方に触れ、刺激されることです。そこで初めてその人の生き方や人となりを知り、その人が好きになってしまうこともあります。今回のテーマに関しては、個人的には、坂本フジヱさんと三浦しをんさんのことが好きになりました(どちらも珍しい名前ですね)。

 

三浦しをんさんの「働かなくたってなんとかなるけど、さみしく生きるのがいやなら働くのが手っ取り早い。働くと、協力し合うことが毎日起こる。楽しく追求できることはキミに向いていること」という考えには共感します。そして特に、助産師として4000件以上の出産に立ち会ってこられた、現在90歳の坂本さんの答えには、目を覚まされ、驚きを通り越して感激しました。長くなりますが、坂本さんの文章を引用させていただきますね。


あなたはもうずいぶん大きく成長したから、全然覚えていないでしょうけど、お母さんのおなかから生まれたときに、「いつ外に出ようか」とタイミングを見計らって、自分で決めて、この世の中に出てきたんですよ。「赤ちゃんは泣いてばかりで何もしゃべらないんだから、そんなわけない!」って?いいえ、言葉を言えないだけで、赤ちゃんだってしっかりと感情や意志を持っています。

 

あなたが生まれたときのことは今度お母さんにじっくり聞いてみるといいと思うけど、たいていは長い時間をかけて痛さや苦しさを乗り越えて生まれてくるものなんです。それなにに、生まれたばかりの赤ちゃんの顔を見ると、みーんな、「ヤッタゾ」というピカピカの顔をしているの。達成感で輝いていて、とても自信に満ちた表情です。

 

何が言いたいかというとね、人には生まれた瞬間から「自分の頭で考えて、決めて、行動したい」という本能があるということ。だから、大事なことこそ誰かに振り回されたりせずに、自分の頭で考えないといけないよ。

 

(中略)


私は長生きしているから、子どもの頃の友だちが大人になってからどんな人生を歩んだか、なんとなく眺めてきた。だからわかるんだけどね、生まれたおうちがお金持ちでたくさん好きなものを買ってもらえるとか、成績のいい学校に行かせてもらえるかとか、そういうことは何十年も後になったときにはあんまり関係ないね。

 

人生の終わりのほうにニコニコ笑ってピースサインができる人はね、「楽しむ」のが上手な人なんだよ。人からどう思われるかは関係なく、「自分はこれをやっていたらワクワクして本当に楽しい」というものを見つけることができた人は、年を取ったときにとってもいい顔になるんですよ。出世とかお金を持っているとか、全然関係ないの。お金をためたのに、なんだかつまらなそうだったり、頑固者になったりする人はいるからね。お金がなくても楽しそうな人が勝ち、と私は思うね。



坂本さんの時代は、小さい頃から皆働くのが当たり前でしたので、なぜ働くのか?なんて考えたこともなかったという前置きから始まり、今の子どもたちには、誰かの役に立つために、自分で考えて決めようと伝えています。そして、実は人生の終わりの方で楽しむことができる人が幸せだと説きます。お金とか名誉ではない、自分がワクワクできることを探して見つける過程のひとつとして働くことがあるのではないかと。


私も全く同感で、幸せは人生の最後の最後に決まるのではないかと思うのです。終わりよければ全て良しではなく、その人の生き方や人となりは最後に凝縮されて表れるということです。介護はその最後の最後に寄り添っていくことですから、QOL(人生の質)を左右する極めて重要な仕事なのです。