南町田のグランベリーモールを抜けてから10分ほど歩くと、屋外で和やかに語らい合うお年寄りたちの姿が目に入ってきた。ここはグループホーム「花物語まちだ南」。天気の良い日の午前中はいつも、施設の外にテーブルとイスを出してきて、四季折々の花壇に囲まれながら、皆でお茶を飲むという。太陽の光を浴び、風に頬を撫でられる。流れる音楽に合わせて、手拍子も聞こえてくる。ご利用者様たちの顔が晴れやかなのは、自然の中で生きているという実感があるからだろう。
グループホームとは、認知症の方々が必要な支援を受けながら共同生活する施設のこと。少人数であることが大きな特徴であり、「花物語まちだ南」はワンフロア―に9人のご利用者様たちが、1階と2階に分かれて生活している。職員は介護者という立場ではなく、ご利用者様の生活に寄り添う形で支援することが求められる。ご利用者様にとってはここが家であるように、職員も自宅にいるような安らかな感覚になるという。
◆働きやすい環境って?
「働きやすい環境ってなんだろう?」
施設長の鈴木綾子さんは、このグループホームを立ち上げたときからずっと考えている。
女性にとって、男性にとって、家族がある、小さい子どもがいる、それぞれの状況によって働きやすい環境が違うならば、ひとり1人が働きやすい環境をつくればいい。たとえば、子どもを連れてきてもいいし、ネコを連れてきてもいい。職員の赤ちゃんを背におぶって仕事をしてもいいと思う。できるだけのことをやってみて、どうしてもできないことがあれば、もう一度考え直してみればいい。「花物語まちだ南」では職員の子どもがご利用者様と共に過ごし、職員が飼っている猫(マロン)も事務所にいた。ふたりともくつろいでいた。これは本当の話だ。働きやすい環境と口で言うところは多いが、実際には何をやっているのだろうか。
◆こういうことをやりたい
「こういうことをやりたい、こうありたいという気持ちを持っていることが大切です」と施設長の鈴木綾子さんは語る。言われたことを言われた通りにやる(やらされる)のではなく、自分で考えて、イメージして、やってみる。もしひとりでできなければ、周りに相談し、協力してもらう。やると決めたらあきらめない。流れ作業をしたければ、大手の施設に行けばいい。そうではなく、こうしたいという想いがあれば、「花物語まちだ南」での介護の仕事は楽しめる。
鈴木さんには、大きな施設での研修に参加したときの、今でも忘れられない光景がある。先輩と一緒にオムツ交換をしたとき、フロアの右側と左側に分かれ、先輩は右側、鈴木さんは左側を担当することになった。まるで競争するかのように先輩は飛び出していき、鈴木さんがまだ半分ぐらいの所のご利用者様のオムツ交換をしているとき、すでに先輩は最後まで終わっていた。鈴木さんがのんびりとしていたわけではない。できるだけ素早く、かつ綺麗に気持ち良くなってもらうために最善を尽くそうとしていた。確かに仕事は速い方がいいし、時間に限りがあることも分かる。しかし、それは作業であり、介護ではない。
グループホーム「花物語まちだ南」では、ご利用者様と一緒にお茶を飲み、くつろぐ時間を共にする。ご利用者様とゆっくり話すことは大切なことであり、ご利用者様同士が話をするような場をつくることも仕事のひとつだ。芋けんぴを食べながら、女子会と称して自ら盛り上がることもある。
先日、職員たちのチームワークで、入浴を拒否するご利用者様がお風呂に入ってくれたときは嬉しかったという。ひとりの職員がご利用者様の機嫌の良さを察し、入浴時間ではなかったがもしかしたら入ってくれるかもと感じ、誘導するのが得意な他の職員がお風呂場まで連れて行き、お風呂介助に慣れている別の職員にバトンタッチして気持ちよく入浴してもらったという。見事な連携プレー。いつも一緒にいるからこそ、ご利用者様の変化に気づけるのだ。そして上手く行くと、職員たちの自信にもつながるのだ。
◆やりながらできるようになる
湘南ケアカレッジの卒業生である迫田優さんは、かつてはコンピューター関連の仕事をしていたが、精神的に病んでしまい転職を決意したという。面接にて、「体力的に厳しかったの、それとも精神的に苦しかったの?」と鈴木さんが迫田さんに尋ね、「体力的な問題であれば介護の仕事では稼げないけど、精神的なものであれば、うちで働けば取り戻せる(癒される)よ」と話した。今や迫田さんからは笑顔が絶えることなく、鈴木さんの右腕として大活躍している。全くできなかった料理も、今はできるという。私はかつての迫田さんを知らないが、今の迫田さんと比べたら全くの別人だろう。
鈴木さんいわく、「グループホームは、先生にたとえると小学校の先生みたいな仕事かな。中学校や高校の先生だと専門の科目しか教えないけど、小学校の先生は何でもできないといけないでしょ。だから、グループホームで働くと、だいたいの仕事ができるようになりますよ」。グループホームでは何でもやらなければならないが、だからこそ、やりながらできるようになる。
◆ワサワサしない、必要以上にテレビもつけない
「花物語まちだ南」をひと言で表現するなら、穏やか。ご利用者様も職員も穏やかで、施設全体の雰囲気も落ち着いている。職員が慌ただしく動き回ったり、怒声が飛び交ったりすることがない。認知症の方々が生活をするグループホームでは、ちょっとしたことがきっかけでワサワサしてしまうこともあるが、そういう場面もまったくない。できるだけ屋外で過ごしてもらったり、傾聴や声掛けであったり、たとえば食事の配膳の順番を工夫してみたり、その時々のご利用者様の状況に合わせて考えて職員が行動している。
その他、テレビも必要以上にはつけないようにして(日曜日の「のど自慢歌合戦」は例外)、その代わりに音楽を流している。そうすることで、職員とご利用者様、またはご利用者様同士の会話が生まれやすくなる。そういわれてみれば、テレビに魂を吸い取られてしまっているようなご利用者様がいない。職員はテレビに頼ることなく、ご利用者様との会話やスキンシップを取ることで、コミュニケーションスキルが磨かれることになる。これは生活と介護の現場に精通した素晴らしい試みだと思った。お昼には私も食べたくなるような美味しそうなご飯を、皆さんで、ゆったりと、笑顔で召し上がっていた。
◆リーダーの存在
施設長の鈴木さんと話をしていると、こういうリーダーが介護の現場にはもっと必要なのだと思わされる。介護現場の混乱や施設・事業所ごとに提供するサービスの質に大きなムラがあるのは、リーダーがきちんと存在しない、育っていないことにあると私は感じている。リーダーは主任であってもいい、施設長であってもいい。こうあるべき姿を身をもって示してみせ、できるまで伝える。マネジメントの基本のキであるが、どれだけのリーダーが実行できているだろうか。「その場で伝えるようにしています」と鈴木さん。仕事を中断してでも、その場で伝える。そのためにはリーダーは現場にいなければならないし、見ていなければならない。そして何よりも、「その人のできることを伸ばしたい」と語る彼女には、人間に対する包み込むような愛情が溢れている。
午後は、尺八奏者の方がボランティアで演奏しに来てくれた。太鼓や歌のコンサートなどを月に1回は開催しているという。「職員は大変だと思いますが、私たちも楽しまなければね」と鈴木さん。1階のフロア―が満員になるほどご利用者様たちが集まり、開演を待っていると、尺八の力強い音色が響き渡った。一緒に歌う方、音楽に合わせて身体を揺らす方、手が熱くなるまで手拍子を打つ方、それぞれのやり方で演奏会を楽しまれている。
一番後ろの席に、卒業生の杉本律子さんの姿が見えた。優しくご利用者様に寄り添い、声を掛けている。杉本さんは湘南ケアカレッジにいたとき、一緒に通っていたクラスメイトが病気で出席できなくなったことを気に留めて、まるで自分のことのように心配してくれたことを思い出した。その本当の優しさとほんわかとした雰囲気は、きっとご利用者様たちを和ませているに違いない。
◆花を守る
「花物語まちだ南」には花守(はなもり)という珍しい役職がある。花守に任命された職員は、施設内外の花の管理をする役割を担う。ここだけの話だが、月1万2千円の手当も出るらしい。花壇の手入れをするだけではなく、花を買い付けに行ったり、花の飾りつけをしたりする。昨年と今年は、21歳の女性職員が花守を務めている。もともと花が好きだったということではなく、やりながら、興味を持つようになってくれたという。
そして今年、「花物語まちだ南」は町田市主催の花壇コンクールにおいて、2015年度の最優秀賞に輝いた。328団体中の1位。市から配られた苗をもとにして花壇をつくり、手入れをして花を育てる。植え替えの時期には、施設長である鈴木さんから職員まで総出で、頭からほっかむりと麦わら帽子をかぶって土を入れ替え、花を植えるという。私が訪れたのは11月だったため、その美しい花壇をこの目で見ることはできなかったが、5月と9月が見ごろだというので、春になったら、咲き誇るパンジーや町田市の花であるサルビアを観に来たいと思った。
(写真提供:花物語まちだ南)
私はこれらの花にまつわるエピソードを聞いて、その施設名ゆえに花を大切にしているという簡単な話ではないと感じた。それは手入れの話なのだ。介護と花壇は全く関係がないように思えるが、そうではない。花を美しく育てるためには、来る日も来る日も水をやり、丈が長くなり過ぎれば切り揃え、愛情を持って接しなければならない。小さなことでも手を抜かない。後回しにしない。それは介護の仕事にもつながってくるのだ。
それは言葉づかいにも現れる。ご利用者様はお客さまである以上、「花物語まちだ南」では〇〇さんという名前の呼び方を徹底している。介護の現場でよく見かける、〇〇ちゃんやお父さん、お母さんというフランクな呼び方はしない。親しみを込めているつもりであっても、ご利用者様はどう思っているか分からないいし、そのご利用者様のご家族が聞いたときに良い気持ちはしないだろう。ご家族の前だけ呼び方を変えるのは難しく、普段の言葉づかいが出てしまうものだ。自分のことを「じいじ」と呼ぶご利用者様に呼応して、その方を「じいじ」と呼んだ職員は、それでも〇〇さんと呼びなさいと諭されたという。
言葉づかいは、ご利用者様に対する呼び方だけではない。かつて「花物語まちだ南」に実習に来た若い女の子がいた。その子は実習が終わると、家の近くの施設で働くことになった。それからしばらくして彼女が遊びに来てくれたとき、ふとした会話の中でご利用者様のことを「うざい」と表現した言葉を聞いて、鈴木さんは驚いたという。とても心根の良い子だっただけに、余計にびっくりしたそうだ。彼女には悪気はなく、たぶん周りの職員さんたちがそういう言葉づかいをしているのを聞いて、自然と発してしまったのだろうと鈴木さんは彼女を弁護した。
花に語りかけるような言葉を介護の現場でも聞きたい。
採用情報
施設・事業所名称 | 花物語まちだ南 |
サービス形態 | グループホーム |
勤務場所 | 南町田 |
最寄り駅・アクセス |
【電車の場合】 神奈中バス JR横浜線・小田急線町田駅 町田バスセンター乗場「鶴間駅東口」行 「車庫前」行 「円成寺前」 「大ヶ谷戸」下車 徒歩3分 神奈中バス 鶴間駅 小田急江ノ島線鶴間駅東口乗場 「町田ターミナル」行 「町田バスセンター」行 「円成寺前」 「大ヶ谷戸」下車 徒歩3分 |
募集職種 | 施設職員 |
雇用形態 | パート・アルバイト |
仕事内容 |
グループホームの利用者様の生活支援 ・週5日勤務(夜勤含む) ・週3日勤務(夜勤含む) もしくは土日祭日出勤できる人・夜勤専門でもOKです。 |
給与 |
時給1,020円(日曜祭日30円増し) 夜勤1回につき6,000円 |
ボーナス | なし |
勤務時間 |
A勤務:8時~17時 B勤務:9時半~18時30分 夜勤:17時~翌日10時 |
休日 | 相談の上、決定します。 |
資格 | 介護職員初任者研修(ホームヘルパー2級)以上 |
ボランティア・見学 | OK |
夜勤 | あり(回数等は相談によって決定します) |
交通費 | 別途支給 |
社会保険 | 週5日勤務の場合は社会保険有り |
車通勤 | 可(ただし専用駐車場はありませんのでご理解ください) |
昇給 | あり(介護福祉士になると時給1110円へUP) |
選考プロセス | 面接により(履歴書持参のこと) |
求める人物像 | 自分で目標を立て、実行できる人 |
その他 |
趣味や特技などあれば、介護に活かしながら仕事をしてもらえます。グループホームは、チームワークにより成り立っています。ひとりでは出来ないことも、皆で知恵や能力を出し合って進むと笑顔が生まれます。やる気が最も大切です。最初は教えてもらう立場でも、経験を積み、教える立場になり、リーダーや契約社員として活躍できます。 |
★「花物語まちだ南」へのご応募・お問い合わせは、以下のメールフォームまたはお電話(042-710-8656)で村山まで。担当の方までスムーズにおつなぎします。