「鼻めがねという暴力」

Amazonのおすすめからまえがきを読み、思わず引き込まれてしまいました。実際に全編を読んでみても、素晴らしい内容でした。何が素晴らしいかというと、自分自身や自分たちの施設の実体験や失敗を通し、なぜ認知症の人への虐待が起こるのか、どうすれば未然に防ぐ(または止められる)のかを具体的に示しているところです。虐待はいけない、許されることではないことなど誰もが分かっている。認知症の人にかかわる私たちが知りたいのは、その先なのです。この本に書いてあることは介護職の人たちにとって、耳や心が痛い内容が多く含まれていると思いますが、それでもその先を知りたい人はぜひ読んでみてください。鼻めがねがなぜ虐待や暴力につながるのか、私にはよく分かりました。

認知症の人が虐待を受けやすい理由として、本書では3つの理由、「言動が理解されない」「できないということが理解されない」「自分の意思を的確に伝えられない」が挙げられています。これに「友達口調・命令口調」「ため息・舌打ち」「あざけり・からかい」などの不適切な対応が積み重なって、最終的に暴力や虐待に至るということです。いきなり虐待に至るわけではなく、それまでに兆候が必ず見られるのです(初期・中期・末期の3つのステージに分類されており、その具体性は必読)。もちろん、その背景にある、介護職員も精神的に追い込まれていることを見逃してはいけません。

実は認知症の人への暴力や虐待は、子どもに対するそれや子ども間におけるいじめとほとんど同じ構造にあることが分かります。私は子どもを教える仕事をしていた時期があり、その現場には、子どもを力づくで、または言葉の暴力によって言うことを聞かせようとする教師が一定数いるものです。教師も成績を上げなければならなかったり、生徒数のノルマがあったり、周りの教師たちからのプレッシャーにさらされていたりと追い詰められている分、子どもたちを何とかしてコントロールしようとして、それができないことの怒りや負の感情が子どもたちに向くのは介護の現場と同じです。

 

それと同時に、自分がコントロールする側であるという意識が強くなることも問題です。分かりやすく言うと、自分の方が偉いと勘違いしてしまうということです。日常的に高齢者や子どもと接していく中で、万能感が心のどこかに生まれてきてしまう。その兆候として、言葉づかいが悪くなったり、ため息、舌打ち、不十分な声掛けから始まり、語気を強めた発言、陰口・悪口などが目に見える形で現れます。些細な言動から始まるということです。

 

 

こういった問題を未然に防ぐためには、まずは見過ごさないこと。初期の段階であれば、適切な言い方で切り返すことで相手に気づいてもらったり(「わがままな」→「自分の気持ちをはっきりと示す」ex)、小さい芽のうちによく話し合い、その場で正しいことと正しくないことをはっきりと示して、認識を改めてもらう(本人はまだこの時点では悪いことだと思っていないことが多い)ことが重要です。そのためには、現場のリーダーの強い姿や倫理観が問われることになります。同じ立場の職員では言いにくいという日本の職場風土がありますので、実際の現場をしっかりと見て気づき、伝えるべきはリーダーであり、それができないのならばリーダーになる資格はありません。リーダーは正しいことを伝えるためには(伝え方もありますが)、一歩も引いてはならないのです。もちろん、リーダーだけの責任ではなく、そのようなリーダーを全面的に周りのスタッフが支えなければならないことは言うまでもありません。