私がこの仕事を好きな理由

まさか自分が介護の学校を仕事にするとは、これっぽっちも思ってもいませんでした。かといって、やりたい仕事があったわけではなく、自分の趣味は仕事として成立しないこともよく分かっていました。そのようなアテのない状態で学生時代を過ごし、社会に出る頃には就職氷河期の真っ只中、とりあえず社会人になってみたものの、仕事にやりがいなど全く感じることができずに1年で辞めてしまいました。そのあと2年間のフリーター&引きこもり生活を送り、たまたま友人の紹介で介護用ベッドを運ぶアルバイトをさせてもらったことがきっかけとなって、介護の学校の仕事に出会ったのです。

 

久しぶりに仕事ができる喜びと介護という世界の新鮮さもあり、夢中になって取り組みました。電話の受付からパンフレットの発送、講師のスケジュール管理、授業の企画・準備、実習先との連絡などなど、困難な仕事もありましたが、自分に役割があることがまず嬉しかったのです。そして、仕事をしていくうちに、もしかするとこの仕事は自分に合っているのではないかと感じるようになりました。なぜかというと、一緒に仕事にたずさわる人たちのことを好きになれたからです。特に、先生方と生徒さんたちのことが好きだと素直に思えたのです。

 

介護の先生方は、自分の息子のように優しく教えてくださいました。介護のことなどまるで知らない私を決して侮ることなく、むしろ生徒さんたちの前では立ててくれたり、「村山さん、あれはね、こういうことなのよ」とあとでこっそりと諭してくれたり、困難な状況になったときにはいつも味方になって助けてもらいました。一緒にいて、いろいろな話をさせてもらうことで、私の世界は広がっていきました。ひと回りもしくは母親と同じぐらいの年代の先生方の人間性の素晴らしさを、私は心から尊敬し、共に働くことが心地よいと思えたのでした。

 

また、教室に足繁く通っていると、生徒さんたちとも話す機会が生まれます。いちスタッフと生徒さんという関係でお話しするのですが、話せば話すほど、たとえちょっとした会話でも、彼ら彼女らの気持ちの良さが伝わってきたのです。ひとり1人が個性的で、楽しい人たちばかり。介護にたずさわろうとする人々はなんて素敵な人たちなんだ!と思い、教室に行くのがますます楽しみになりました。

 

2年目、3年目と、膨大な仕事量と責任の大きさに押しつぶされそうになりながらも、先生方と生徒さんの存在に私は救われました。さすがに教室に顔を出すことも少なくなり、生徒さんたちと話すこともほとんどできなくなってしまいましたが、それでも生徒さんたちの笑顔を知っていることは、仕事をやり遂げるための心の支えになりました。上司から無理難題やスタッフ間における不協和音など八方ふさがりのときにも、「村山さんのためなら」と言って、先生方は無条件に力を貸してくれました。あのとき、いつか先生方のためになれるように、私も力をつけたいと心に決めました。今の私がいるのは、先生方のおかげです。

 

 

好きな人々に囲まれて仕事をすること以上に、素晴らしいことがあるでしょうか。まだ助けてもらったり、教えてもらったりしてばかりで、誰かの役に立てているという実感は少なく、天職というにはあまりにも身勝手かもしれません。それでも、あのときに感じた、自分にはこの仕事が合っているかもしれないという気持ちは確信に変わりつつあります。私がこの仕事を好きな理由は、好きな人たちと一緒に仕事ができるからであり、その想いは今も変わりません。