「五体不満足」から20年の歳月が経ち、山あり谷ありの人生を経て紡ぎ出された、乙武洋匡さんによる青春小説です。脳性まひのため下半身を動かすことができず、車椅子で生活をしている主人公が、ひょんなことからホストを仕事にするようになるというストーリーには、どうしても乙武さん本人を投影しないわけにはいきません。新宿駅の雑踏を車椅子で脱出するシーンから物語は始まり、車椅子に乗っていることで周囲の目を集めてしまうこと、おしゃれなお店の前に段差があって入れないこと、健常者との恋愛、そして障害者自身がレッテルを貼ってしまうことなど、乙武さんだからこそ描ける心象風景にドキッとさせられつつ、最後まで一気に読ませるスピード感のある小説でした。
主人公の河合進平は、就職活動が上手く行かず苛立っていたところに、ティッシュ配りの人からティッシュをもらえなかったことから、「車椅子のホスト。ちっとも無理なんかじゃないって俺が証明してやるよ」と売り言葉に買い言葉で宣言してしまいます。連れて行かれたホストクラブを経営するリョウマに、右足を切断して晩年は義足で生活をした大隈重信に由来するシゲノブという源氏名を与えられ、ホストとしての仕事のスタートが切られました。
トイレ掃除などシゲノブができないことを手伝ってくれるタイスケや障害者がホストを務めることに嫌悪感を覚えるノブナガやその手下のヒデヨシ、細かいところまで気がついて教えてくれるヨシツネなど、個性豊かな仲間たちとぶつかり合いながらも魑魅魍魎とした世界を前へと進んでいくのです。最初は全てが上手く行かず挫折をしたり、障害のことを理由に自分を卑下していたシゲノブも、アヤとの出会いやテレビで取り上げられたことをきっかけとして、ホストとしてだけではなく人間としての成長を果たします。
―ホストクラブで働いていて、差別や偏見を感じることはありますか?
「うーん、そうですね…。ないと言ったら、嘘になります。だけど、誰しもそういう側面を持っているのかなと。もちろん、一人ひとりと向き合うことがコミュニケーションの基本だと思うんですけど、やっぱり僕らはその人が属しているカテゴリーを見て、この人はこういう人なんじゃないかとレッテルを貼ってしまうことってあると思うんです。そういう意味では、僕だって差別や偏見の加害者になることだってあるのかなと」
小説の中では、テレビの取材を通してアヤに伝えていることになっているが、実は小説の中の主人公の言葉を通して、乙武さんが読者に伝えたいメッセージなのではないでしょうか。そして、最後のシゲノブの母の言葉もそうなのだと思います。
「私ももっと自由に行きたい。この子にももっと自由に生きさせてあげたい。『政治家の妻』とか『政治家の息子』とか、『車椅子に乗っている』とか、『夜の世界で働いている』とか、ねえ、あなた、そういうレッテルに縛られる生き方はもうやめにしましょうよ」