ゼロ印象

知的障害者ガイドヘルパー養成研修の初日が終わりました。藤田先生の相変わらずの聞き応えのある授業と、森先生の現場感あふれる授業の両面から、生徒さんたちは知的障害やガイドヘルプについて多くを学ぶことができたはずです。藤田先生の授業の中で、「私たちは女優・男優にならなければいけない」という話が出ました。つまり、介護者・支援者たる者は自らを演じられなければならないということです。相手と接するとき、ありのままの自分を受け入れてもらうのではなく、まずは自分が相手に合わせていく。そのためには、相手にとって受け入れてもらいやすい人を演じることから始めることです。第一印象を良くすることは大切ですし、役者さんたちが役作りをするように、その前のゼロ印象をつくっておくことも大事ということですね。

 

ゼロ印象をつくるために、そして第一印象を良くして、相手にとって受け入れてもらいやすい自分を演じるためには、何よりも挨拶が基本になると藤田先生は語ります。明るく元気よく、相手の目を見て、笑顔で、誰にも平等に挨拶をすることはコミュニケーションの基本のキなのです。当たり前のようですが、意外と難しいことですよね。きちんと挨拶ができない(おろそかにする)ということは、相手に対して興味や関心がないということであり、コミュニケーションを取りたくないという意思の表明でもあります。藤田先生は病棟に行くと、必ず全ての患者さんに挨拶をして回るそうです。逆に言うと、ただそれだけで多くの言葉を交わさなくても、相手は自分に対して好意を持ってくれていると感じてもらえるということです。

 

ガイドヘルパーの仕事でもそれは同じです。たとえば利用者さんと初めて会うとき、きちんと挨拶ができるかどうかは大切です。小さな声で元気なく、目も合わせることなく、無表情で「こんにちは」と挨拶して、隣に立たれても、そんな人にこれから外出に付き合ってもらいたくないと私たちでも思うはずです。しかもガイドヘルプは楽しみのために利用するサービスですから、一緒にいると楽しい人に支援してもらいたいのが利用者さんの本音です。安全を確保できる知識や技術はもちろん大切ですが、この人とだったら楽しそうと思ってもらえる第一印象と、それを支えるゼロ印象がいかに重要かということです。

 

 

湘南ケアカレッジが開校して以来、私が毎日朝と授業終了時に生徒さんに挨拶をするのは、多くの意味があります。私は授業の中で生徒さんたちとコミュニケーションを取ることができないので、せめて挨拶だけでもできれば生徒さんとの距離感は違ってくるはずです。それ以外にも、学校に来てこれから学ぶというスイッチを入れるためでもありますし、挨拶を交わすときの相手の反応を見て、その人となりや今の心理状態を把握するためでもあります。きちんとした形で挨拶が返ってこない場合、その人とはもっとコミュニケーションが必要だと思いますし、また何か困っていることや悩みがあるのかもしれないと心配します。たったの1秒の挨拶だけで、私たちは自分という存在のあり方を他者に表現することができ、また他者のことを理解する大きなきっかけにもなるということです。