変えられるもの、変えられないもの

3月短期クラスが終了しました。「修了したくない」とある生徒さんがおっしゃっていたように、とても楽しく学び、教え合い、助け合える、仲の良いクラスでした。最後のアンケートで印象的だったひと言に、「クラス全員が全員のことを知っていて良かった」というものがあり、まさにそういうことだと感じました。最終的な介護職員初任者研修の満足度を決めるもしくは高めるのは、生徒さん同士の横のつながりなのです。それがなければ、どれだけ私たちが素晴らしい授業を提供しようが、先生と生徒さんの信頼関係が築かれようが、大満足にはならないのです。

生徒さん同士のつながりを意図的につくるのは難しいことですが、仕組みとしてできることはたくさんあると思います。たとえば、湘南ケアカレッジでは、教室で座る席を固定していません。むしろいつもと違った席に座ることを勧めています。小学校や中学校のように、朝来て座る席が決められているわけではないということです。初日は誰もが新しい席に座りますので、2日目から「前回とは違った席に座ってみてください」と声掛けをしています。初日の望月先生も授業の中で、違った席に座ることの意味を伝えてくれているようです。

 

それはできるだけ多くのクラスメイトと接点を持って、仲良くなると、研修に対しても満足度が高くなることが分かっているからです。もしかしたら運命の出会いがあるかもしれないのに、同じ席に座り続けることで、せっかくの機会を逃してしまうのももったいないですよね。実際に卒業生さんたちからは、「声掛けしてもらったおかげで、いろいろな人たちと話すことができて良かった」と後から言ってもらうことが多いです。その時は分からなくても、広がった人間関係を見て、あえて違う席に座った意味を理解するということです。

 

そもそも声掛けをしているのは、不思議なことに、人間は前回と全く同じ席に座る習性があるようです。たとえ週1のクラスでも、1週間前に座った席を忘れることなく、席が決められているわけではないのに、同じ席に座ろうとします。前回と同じであることに安心するのかもしれませんし、誰かのお気に入りの席を取ってしまうことに遠慮するのかもしれません。ただそうして誰もが前回と同じ席に座るとどうなるでしょうか?毎回、同じ人たちが周りにいることになります。席を固定してしまうと、人間関係を含む環境が固定されてしまうのです。

 

逆に前回と違った席に毎回座ることで、毎回違う人が周りに座っていることになり、これまでとは違ったクラスメイトとの接点が一気に増えます。たとえば、毎回同じ席に座ると隣の人と同じグループになる後ろの列の2人を合わせて(極端に言うと)3人としか接点が持てません。ところがもし毎回違う席に座ることで、隣の人に後ろの列の2人を合わせた3人×15日間で45人(実際には約24名定員なので全員)のことを知ることができます。

 

毎回違う席に座るというほんのわずかなことですが、私たち一人ひとりの日常のちょっとした習性や習慣を変えることによって、全体としては大きな変化や出会いが生まれることが分かりますね。

 

「変えられるものを変える勇気を、

変えられないものを受け入れる冷静さを、

そして両者を識別する知恵を与えたまえ」

 

という神学者ニーバーの有名な言葉があります。様々な解釈があると思いますが、何から何まで変えることが良いということではなく、変えるべきものは変えるべきであり、変える必要のないものは変えてはならず、その両者を識別して行動するためには、勇気と冷静さと知恵の全てが必要であると私は考えています。

 

変えるべきものはそのままに、変えなくてよいことは変えてしまうことが多く見られる世の中ですから、ニーバーの言葉は心に響きますね。何よりも大切なのは、何を変えるべきで、何を変えないべきかを見極める知恵なのだと思います。それなくしては、どれだけ勇気と冷静さがあっても私たちは間違ってしますのです。

 

 

変えるべきことと変える必要のないもの見分け方は簡単です。まずは変えること(もしくは変えないこと)によって起こりうる未来を想像してみることが大事です。それから具体的に、変えることによって生じるメリットとデメリットを比べてみること。変えないことにもメリット・デメリットがあるはずです。比較してみて、メリットがデメリットを上回るのであれば、行動してみる価値はあります。変える価値があると思ったなら、勇気を持って行動すべきです。変えない方が得策だと考えたなら、冷静さを持って受け入れるべきです。皆さんもぜひ試してみてください。

 

追伸

 

先日、先生方と日曜日クラスの生徒さんたちに誕生日をお祝いしてもらいました。湘南ケアカレッジが開校して、丸8年が経ちましたが、今年もこうして祝ってもらうことができて幸せです。開校したときはまだ30代だった私が、いつの間にかアラフィフになってしまいました(笑)。「100年続く学校」を目指している湘南ケアカレッジにとっては、まだまだ旅の途上ですね。守るべきものは守り、かといって守りに入りすぎず、新しいことに挑戦もしていきたいと思います。経営とはそのバランスであり、思想でもあります。世界観が変わる福祉教育を提供することを通して、湘南ケアカレッジにかかわってくれた人たちの未来がより明るく照らされることを願っています。