一人ひとりを考える

先日、大阪の介護の学校で働いている友人と会って話しました。もうかれこれ3年も会っていなかったようです。それでも、本当の友人は何年ぶりに会っても変わらないものですね。安心感というか、共感があるのです。彼は今や関西だけではなく、関東の教室もマネージメントしていますが、とにかく学校や先生、生徒さん同士に対するクレームが絶えないそうです。大したことではないのに文句を言ってきたり、いざこざが起こってしまうそう。学校が仲裁に入り、その対応に追われてしまうことも少なくないそうです。たしかに、教室が多くなるとその分トラブルも増えるのですが、それ以上に、私が話を聞いた限りでは、生徒さんと学校や先生、また生徒さん同士の関係性に問題の根っこはあると思いました。生徒さん一人ひとりを、人として考えていないことから生まれる、関係性の希薄化による問題です。

 

一人ひとりを考えると言葉で言うのは簡単ですが、意外と簡単ではありません。プライベートでは人間同士の付き合いができている人でも、仕事となると人を一人ひとりの個人として見ることができなくなります。それは私たちのせいではなく、今の経済のシステムがそうさせてしまっているところが原因のひとつです。仕事とはビジネスの中にあり、ビジネスはどうしても効率化を目指します。効率的に利益を上げることを考えると、人を左から右へ、佐藤さんや木村さんではなく、匿名の集団のお客様たちとして扱う方が効率的だからです。

 

一人ひとりを考えていてもキリがないというか、まとめて作ってまとめて売る方が、どう考えても効率的に稼げるのです。ビジネスは効率的に稼ぐことを目指すとすると、その中の仕事もその一部であり、私たちは望む望まないにかかわらず相手を一人ひとりの個人として考えることは非効率な状況に置かれてしまいます。これは介護の現場だけではなく、医療の現場でも、近くのコンビニやスーパーでも、飲食店でも衣料品店でも起きていることです。効率的に稼ぐことをゴールとするならば、一人ひとりを見ようとすることは障害にしかなりません。十把ひとからげに扱う方が効率的に稼げるのです。

 

そうすると当然、失ってしまうものもあります。一人ひとりとの関係性です。学校でいうと、生徒さんと学校や先生、また生徒さん同士の関係性が失われてしまいます。相手のことを見ていないので、どうしても対応が無機質になったり、ルールやマニュアルどおりになります。お客様は自分が個人として見られていないことを感じるので、スタッフを人として見ることもありません。お互いが人間の外見をして動くロボットのような関係になる。そうすると、相手に完璧を求めるあまり些細なことが気になり、相手の弱みが目に付くようになり、上手く行かないのは目の前にいるロボットのせいだと思ってしまうようになるのです。全て無意識のうちに。ほとんどの問題は関係性から起こるのです。

 

どうすれば良いかというと、やはり一人ひとりを考えることです。一人ひとりを考えると言っても、人生を背負うとかサポートするとかそんな大げさなことではありません。ちょっとした声掛けをしてみることから始めましょう。名前を呼んでみてもよいかもしれません。声をかけるためには、相手の動きや心理を観察したり、興味を持ったりしなければいけません。声をかけてみると、相手からは面白い反応が返ってくるかもしれません。それに返しているうちに、お互いのことが少しずつ知れて、いつのまにかお互いをひとりの人間として見られていることに気づくはずです。その積み重ねが大切です。

 

互いに人間として考えることができると、関係性が自然と良くなり、どちらも楽しいはずです。サービスを受ける側も提供する側も、お互いを理解しようとするはずです。もちろんクレームは一切なくなり、むしろ感謝してくれるはずです。そこには笑顔が生まれます。そして実は、その方が効率的に稼ぐことができるのです。だって、同じものを買うならば自分の好きな人から買いたいと思うはずですよね。大量にお金を使って無駄な広告を打って、無駄な人材をたくさん雇って、大きなザルで儲けようとするよりも、人間同士の関係性で商売する方がよっぽどローコストです。

 

 

コツは「効率的に」と「稼ぐ」を切り離して、別々に考えることです。効率的に仕事をしようとすることも、稼ぐことも決して悪いことではありません。この2つをまとめてやろうとするからおかしな方向に行ってしまい、誰もが不幸になってしまう。そうではなく、一人ひとりを考える方が実は「効率的」であり、その結果としてたまたま「稼げる」と考えることです。どのようなビジネスや仕事をするにしても、私たちや私たちの社会が幸せになるために、大切な考え方だと思います。