目に見えないものに価値を置く

「この前のブログを読んで、頑張らなくてはと励まされました」と実務者研修に通ってくれているOさんが言ってくれました。彼は初任者研修を修了してすぐに働き始めた職場で、先輩からの厳しい指導にあって悩んでいて、前回の授業もお休みだったので心配していたところでした。ブログを読み返してみたところ、彼にとっての助けになりそうなことが直接書いてあるようには見えなかったのですが、何かしら私の言葉が届いたのであれば嬉しいことです。自分には意図しない形で励ましたり、救いになれたり、また逆に傷つけたりすることもあるかもしれませんが、私たちは目に見えない形で生徒さんに影響を与えています。教育という仕事には大きな責任が伴うのです。

7月短期クラスには、今から5年前の卒業生であるAくんのお母様が来てくれました。私もそうですが、先生方ともよく話をしていましたので、よく覚えている先生も多いのではないでしょうか。お母さんが介護の仕事をするために学校を探していたところ、「絶対にケアカレに行った方がいいよ」と言われたそうです。一見強面でシャイな彼が、お母さんにそんな風に勧めている姿がなかなか想像できません(笑)。彼は今、介護ではない自動車関係の仕事をしているそうですが、5年経った今でも覚えてくれていることが嬉しいですね。目に見えない形でつながっていたということです。

 

 

実務者研修に通っていたIくんに、キャサリンからカードを贈らせてもらいました。キャサリンはカナダから来日し、ケアカレの生徒さんたちに自助具の作り方(工夫をすることの大切さ)を教えてくれています。授業で学んだことを生かし、現場で実際に作って使ってみたという声をくれた生徒さんに対して、キャサリンからお礼のメッセージカードを渡すことにしています。池野くんは早めに卒業してしまったので郵送になりましたが、ポストにケアカレのオレンジ封筒が届いて、その中に入っているキャサリンからのメッセージを読むときのIくんの顔が見てみたいと思うのは私だけでしょうか。彼にとって、一生思い出に残るイベントであり、キャサリンのことはずっと忘れられないはずです(笑)。

最近、初任者研修を修了したTさんから岩手の「ごま摺りダックワーズ」、実務者研修を修了したSさんから埼玉のお煎餅をいただきました。どちらも出身地の銘菓らしく、先生方も初めて食べる味だったのではないでしょうか。こうした心遣いはありがたく、ケアカレが開校して以来、私たちは食後のおやつに困ったことがほとんどありません。お菓子という目に見える形を取っていますが、その本質は先生方に感謝の気持ちを伝えたいのだと思います。私がブログを読んでも分からなかったように、先生方にとっても生徒さんたちに何が具体的に影響を及ぼしたのか分からないことがほとんどのはずですが、それでも目に見えない何かを私たちは日々、やり取りし合っているのです。

私の大好きな星野道夫さんという写真家であり冒険家がいます。彼はアラスカに渡り住み、ホッキョクグマやムース、ザトウクジラなど極北の地に生きる動物から風景まで、自然界の写真を撮り続けました(中学校の教科書にも載っています)。そして、その地で生き続けてきた先住民たちの暮らしや人生観、歴史も語り継ごうとしました。そのひとつとして、先住民たちの祖先が立てたトーテムポールという柱の話があります。トーテムポールは木の彫刻であるため、時間が経つと倒れたり、朽ちてしまうので、最近はその多くはその土地を守り続けた元の場所から持ち去られ、博物館などの中に収容されてしまっています。文化を残すというと聞こえは良いのですが、「いつの日にか、トーテムポールは朽ち果て、自然の中に還っていく。そして、そこは聖なる場所となる。なぜそのことがわからないのだ。大切なことはカタチあるモノではない」と先住民は考え、星野道夫さんはこう綴りました。

 

目に見えるものに価値を置く社会と、見えないものに価値を置くことができる社会の違いをぼくは想った。

そしてたまらなく後者の思想に魅かれるのだった。

 

(「最後の楽園3」PHP研究所より)