世界観が変わるような、最高の福祉教育を

 

私が介護職員初任者研修(当時のホームヘルパー2級講座)を受講したのは、今から10年以上前のこと。大学を卒業してから勤めた会社を1年で退職し、今で言うところのフリーター、引きこもり生活を2年ほど続けたのちに、友人の紹介もあって、(ありがたいことに)とある介護の学校で働かせてもらえることになりました。最初は介護ベッドを教室に搬入したりしていたのですが、せっかく仕事をするのなら、どんな授業をしているのか知っておこうと思い、自ら志願してホームヘルパー2級講座を受けさせてもらいました。

 

渋谷にある教室に2ヶ月間ほど通いました。当時、全くと言ってよいほど介護や福祉の知識はなかった私でしたが、新しい世界に飛び込むつもりで、教室に足を踏み入れたことを覚えています。世代を超えた仲間たちと、久しぶりに学生のような生活を楽しみ、それまでの人生では教えてもらわなかったことを学びました。体験型の学習やグループワークを通して、多様な他者を理解しようと努めることで、少しずつ自分の周りの世界の見え方、大袈裟に言えば、私の世界観が変わっていったのです。 

 

たとえば、食事の介助の授業にて、自分でお昼の弁当を持ってきて、クラスメイトに食べさせてもらう演習がありました。食べさせるだけではなく、介護を受ける側の立場に立ち、食べさせてもらうという研修でした。本当に小さかった頃を除き、他人に食べさせてもらうことから遠ざかっていた私にとって、その経験は衝撃的でした。私が味わったのは、どこにもぶつけようのない怒りのような感情でありストレスでした。自分が食べたい食べ物を次に選べない悔しさ、自分のペースで食べられないもどかしさ。ほんの数分の体験でしたが、今でもあの時の感情は忘れられません。

 

今まで当たり前にできていると思っていたことが、当たり前にできなくなったとき、当たり前は当たり前ではなくなります。食べたいものを自分の手で食べられるということが、どれだけ素晴らしいことか。失ってみないとその大切さが分からないことは世の中にたくさんありますが、わざわざ全てを失わなくても、その体験をすることはできるのです。介護でいえば、介護される側の体験をすることで、その気持ちや感情を理解するきっかけを与えてもらえるのではないでしょうか。世界観が変わることで、私自身が癒されていったのは、当たり前が素晴らしいということを知ったからなのだと今は分かります。

 

そして、私たちにできることは、介護を受ける側の怒りのような感情やストレスを少しでも和らげることです。この人に食べさせてもらうと、まるで自分で食事をしているような気持ちになれる。もしかすると、自分ひとりで食べるよりも楽しく食事ができる。今は健康に生きていられる身として、そんなケアができるように、私たちは学ばなければならないのです。世界観が変わるような、最高の福祉教育を、ひとりでも多くの人々に届けたい。それが私の福祉教育に賭ける想いであり、湘南ケアカレッジの原点でもあります。