真っ暗な檻から

高齢者を虐待した人の6割は孤立介護の状態にあった。朝日新聞社と日本高齢者虐待防止学会による調査が発表されました。そのうちの4人に3人は介護の疲れや悩みを抱えており、半数は経済的な困窮が見られたとのことです。あらゆる面で追い詰められて、虐待に至ったということが伝わってきます。正直に言うと、たとえば自分の親を虐待するなど想像もできませんが、その当事者にしか分からない心理状況があるのでしょう。「真っ暗な檻(おり)にいるようだった」という、認知症の母の介護に疲れ切って手をあげてしまった男性の言葉が印象的です。

介護職員初任者研修の中でも学びますが、2006年に施行された高齢者虐待法において、暴力を振るうなどの①身体的虐待、衰弱させるような介護や世話の②放棄(ネグレクト)、暴言を吐くなどの③心理的虐待、年金などを奪う④経済的虐待、わいせつな行為をする⑤性的虐待の5つを虐待と定義しています。身体的虐待、心理的虐待、介護などの放棄(ネグレクト)の順で多く、被害に遭う高齢者は女性が圧倒的に多いとされています。また悲しいことに、在宅介護では、配偶者や子、子の配偶者など、身近な親族で介護を担う者が虐待者になることが多いのです。

 

上記の言葉を発した男性は独身で、母親と2人暮らし。母親は2年前に自宅前で転び、背中や腰の骨が折れてから体力が低下しました。男性は警備の仕事の傍ら、ひとりで介護を始めました。認知症も患っていた母親は、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と30分おきに男性を起こしました。同時期に男性の警備の仕事も半減し、介護サービスを使おうにも週2回が限度で、それ以外の日は、朝に弁当を用意して出かけ、帰ってから、風呂の介助やオムツ交換をしたそうです。こうして独り母と向き合っているうちに、一線を超えてしまったのです。

 

誰にとっても不幸な問題に対してどう取り組むのか。主な介護者として日常的に介護をするなかで虐待に至った人の64%は男性だったことからも、53%の市区は「家事や介護に不慣れな男性向けに介護講座を開く必要を感じる」と回答したが、実施は27%にとどまり、講座を始めても2~4名ぐらいしか集まらないとのことです。どうやって介護の悩みや疲れを抱えた男性を引き出すのか。とても難しい問題であり、湘南ケアカレッジとしても何らかの力になれないかと考えます。今は上手く言えませんが、家族介護で悩みを抱える方と行政と私たちのような民間の学校をつなぐ、一本の線のようなものをつくってゆく必要があるのではないでしょうか。

 

湘南ケアカレッジの受講生には男性の方も多く、もしかすると同じような葛藤を潜在的に抱えている方もいらっしゃるかもしれません。介護職員初任者研修では、介護の技術や知識だけではなく、介護と向き合うこころを学び、また支え合える仲間との出会いもあるはずです。何よりも気分のリフレッシュになる楽しい研修です。そういう新しい世界を準備して、湘南ケアカレッジは待っていたいと思います。ひとりでも多くの方が、真っ暗な檻から抜け出せるように。そう強く感じさせられた、土曜日の朝日新聞のトップニュースでした。