介護離職

先週、NHKの番組「クローズアップ現代」で、介護離職について特集されていました。介護離職とは、仕事と介護の両立が難しく、仕事を辞めなければならない状況に追い込まれることです。その数は年間で10万人に上るとされています。自分の親を介護する年代は働き盛りの40~50代、年齢的に一旦仕事を辞めてしまうと再就職は難しく、しかも家族を経済的にも支えていかなければならない男性の割合が多い。やがて外の世界とコミュニケーションを取る機会が少なくなり、社会的に孤立してしまったり、介護をする人自身が生活保護を受けなければならないほど困窮してしまったりするケースあるそうです。

 

今、私たちの目に見えているこの問題は、氷山の一角にすぎません。10年以上前から、介護離職をせざるをえず、社会的に行き詰まってしまう人々はたしかにいましたが、まだ社会的な問題にまではなりえませんでした。10年経った今、少しずつ表面化しつつあり、今後10年かけてこの問題は本当の意味で社会的な影響を持ち始め、そこからおよそ10~20年間にわたって影響力を持ち続けるはずです。なぜかというと、人口ボリュームの多い団塊の世代が75歳を迎え、自立度が下がってくる、つまり要介護度が上がってくる人がグッと増えるからです。

 

現在は65歳以上の方を高齢者としていますが、65歳から75歳ぐらいまでの方は比較的元気な方が多いのが現状です。ところが、75歳を迎えるころには、いろいろな疾患を抱えることが多くなり、それに伴って要介護度が上がってくるのです。また女性の場合は、骨粗しょう症や筋骨格系の問題があったりして、75歳を超えるとほとんどの方はだらだらと自立度が下がってきます。不死の薬が発明されるわけもありませんし、誰もが死ぬまで健康な社会など考えられません。高齢化に伴う問題は、人間や生物の摂理でもあり、どうしても避けられない問題なのです。

 

全ての家族が、人生のどこかで必ず介護に直面します。まずこの問題に向き合うのは、これからの日本社会を担うべき、今の30代後半から40代前半の団塊ジュニア世代でしょう。元気でしっかりしていた祖母が認知症になり、私の名前を思い出すのが困難になり、また母が病気で大きな手術をしたりといった、10年前には想像もしていなかったことが、私の身の周りにも起こりつつあります。バブルの恩恵にもほとんど与れず、就職氷河期を渡り歩き、そして今度は介護の問題がやってきます。なんて損な世代かと思いますが(笑)、これはこれで戦後の安定した社会を過ごさせてもらった私たちが取り組むべき課題だと割り切るしかありません。

 

それでは解決策はと問われると、見つかりませんというのが正直なところです。不況にあえぐ企業が働かせ方を見直して、社員のワークライフバランスを考えるとは到底思えませんし、介護保険制度や介護サービスを充実させるのも、社会保障費の増大を考えると現実的ではありません。全ての根っこは、人口の高齢化にあるからです。根っこに問題がある問題の根本的解決はできないのです。番組を見終ったのち、この問題に対する根本的な解決は難しくとも、そろそろ私たちの働き方や、生き方、そして死に方を改めて考えていかなければならないときが来ている、そう感じました。

 

★NHKクローズアップ現代「どうする介護離職~職場を襲う大介護時代~」の放送の一部は、こちらからご覧いただけます。