日常から非日常へのスイッチ

「あいさつはコミュニケーションの基本」と以前に書きましたが、湘南ケアカレッジにとって、あいさつの意義はそれだけではありません。あいさつにはたくさんの力があり、そのひとつとして、日常から非日常へのスイッチがあると私は考えています。あいさつをすることで、それまでに引きずってきた日常を断ち切って、学校という非日常の空間に入ってきてもらうきっかけとなるのです。最初のうちは、あいさつをすることでこちらからスイッチを押しますが、気がつくと生徒さん同士であいさつをするようになって、自らスイッチを入れてくれるようになります。

私たちは日常生活の中でほとんどの時間を生きています。朝起きて、顔を洗い、ご飯を食べ、身だしなみを整えてから自宅を出る。電車やバスに乗り、音楽を聴いたり、本を読んだりスマホを見たりして、駅やバス停に到着する。電車やバスを降りてからも、雑踏の中で人ごみをかき分けながら、ときには遅れそうになりながら急ぎつつ、その途中では、これはどうしよう、あの人には何て言おうなど、日常の中で起こる些細なことを考え、ときには悩み、うつむきながら目的地に向かいます。このままでは、どこまで行っても日常生活の延長線上です。

 

そういった日常生活モードを断ち切ってもらうために、あいさつは最適です。生徒さんが教室に入るとき、「おはようございます!」とあいさつをすることで、学校という非日常の空間に気持ちを切り替えてもらうのです。

 

実はこれは私が子どもの教育に携わっていたときに学んだことです。ある日、実験をしてみたことがあります。子どもが教室に入ってくるときに、いつもは大きな声で元気よく、こちらからあいさつをすることを心がけていましたが、その日だけは、こちらからは何も発しませんでした。すると大半の生徒はあいさつをすることなく教室に入っていきます。

 

どうなるかというと、気持ちが切り替わっていない生徒が多いため、教室の雰囲気がドヨーンと曇ってしまうのです。先生の技量によっては次第にほぐれていくのですが、下手をすると雰囲気が硬いまま授業が終了なんてこともありました。入り口であいさつをするのとしないのとで、これほどまでに差が出てしまうことに驚かされたものです。

 

それ以外には、あいさつをすることで、子どもたちの気持ちや状況が分かるというメリットもありました。あいさつをするときには、必ず相手の表情を見ますよね。特に子どもは気持ちが正直に顔に出ますので、何か嬉しいことがあったのかな、また逆に嫌なことがあったのだろなとか、あいさつをするときのその表情や声のトーンから知ることができます。心配になったときは、「何かあったの?」「困っていることある?」と声を掛けるのです。

 

これは大人も同じかもしれませんね。湘南ケアカレッジの生徒さんがどういう気持ちで学校に来てくれて、どういう気持ちで帰って行かれるのか、「おはようございます」「お疲れさまでした」とあいさつするだけで察することができるのではないでしょうか。ひとりでも多くの生徒さんに笑顔で来て、帰ってもらうために、これからも私たちは笑顔であいさつを続けていきたいと思います。