コミュニケーションには様々な方法があります。言語や文字によるコミュニケーションや身振り手振りなどの非言語コミュニケーションを通して、社会生活を営む者同士がお互いに意思や感情、思想を伝達し合い、情報を共有することができます。もちろん介護の世界でも同じで、あらゆる方法を用いて、利用者と介護者、または介護者同士がコミュニケーションを行ないます。その中でも利用者と介護者の間で行なわれる、独特なコミュニケーション方法のひとつにタッチングがあります。
タッチングとは、相手の身体の一部に触れることでコミュニケーションを図る方法です。身体に触れることだけで直接に自分の意思や感情、情報等を伝えることは難しいのですが、人間同士の温かみや相手の心を推し量ろうという気持ちを表すことができるはずです。そこに言葉が加わることによって、さらにコミュニケーションは円滑になります。言語的コミュニケーションや他の非言語的コミュニケーションだけでは成しえないほどに、お互いの距離を一気に縮めることができるのです。
何かお願い(頼みごと)をするとき、その話の途中で相手の身体に触れることができると、その願いは聞いてもらいやすい(受け入れてもらいやすい)という研究結果もあるそうです。自分がお願い(頼みごと)をされるときを考えてみると、よく分かる気がします。体温を感じることで、無意識にではありますが、相手も人間だという感覚が芽生えるということでしょうか。そうなると、その人の期待に応えてあげたいという気持ちが湧いてくるのです。良い悪いは別にして、この方法を営業などの際に応用している会社もあるようですね(笑)。
湘南ケアカレッジの「介護職員初任者研修」の授業でも、タッチングを体験してもらいます。生徒さん同士がお互いに手を触ってマッサージする、肩を揉んでもらう。まずは黙ったまま、次は話しながら。話しながらのタッチングの方がお互いに安心できることが分かります。それまでは知らない同士だった方が、もうこれだけで仲良くなれた気がするのです。タッチングはお互いの関係性や利用者によって嫌がるケースもあるので気をつけて臨むべきですが、一般的には、言語コミュニケーションと組み合わせると効果的であることを学ぶのです。
思い出してみると、私も小さい頃は曾祖母(ひいばあちゃんと呼んでいました)の手を握って話をしたりしていました。もちろんタッチングを知っていたはずもなく、幼いながらになぜ手を握ったかというと、たぶんひいばあちゃんが、私が物心ついたときからほとんど目が見えなかったからではないでしょうか。手に触れることで、私がすぐ側にいて話を聞いているということを感じてもらったのだと思います。そうすることで、ゆうに半世紀以上も年の離れた者同士がコミュニケーションを取ることを、無意識のうちにサポートしていたのですね。100歳近くまで長生きしてくれたひいばあちゃんの手のぬくもりを、今でも私は覚えています。