私ができるなら、あなたもできる。

「私には99の問題がある――脳性まひは、その1つに過ぎない」というタイトルも衝撃的ですが、その講演の内容はさらに私を驚かせてくれました。「最初にお断りしておきます。私に感動を求めないでください」、「皆さんも私のことを気の毒に思う必要はありません」という前置きから始まる話は、ジョークと笑いの連続で、彼女の波乱万丈の人生を通して、彼女の前置きが嘘やハッタリではなかったことを思い知らされます。でも、最後の最後に、彼女の話が終わったとき、なぜか胸を打たれて、自然と涙がこみ上げてきてしまうのが不思議です。

 

脳性まひは病気ではなく、遺伝的なものでもなく、赤ちゃんが母親のお腹にいるときから生後4週間までの間に脳の病変による、運動または姿勢の異常のことをいいます。思い通りに手や足を動かしたり、姿勢を保つのが難しかったりします。脳性まひは、運動障害の特性から、大きくアテトーゼ型と痙直型に分かれ、そこからさらに失調型、混合型に細かく分かれます。

 

分かりやすく説明すると、アテトーゼ型とは意図せずに体のあちこちが動く、意志と一致しない動作があるタイプです。痙直型は手足が硬直して、突っ張った状態になり、筋肉に力が入りすぎて動かしづらい痙縮(けいしゅく)や筋肉が固まって関節の運動が制限される拘縮(こうしゅく)が起きるタイプです。この話者であるメイスーン・ザイードさんはアテトーゼ型だと思います。

 

こうした病気や障害に対する知識は、「介護職員初任者研修」の中でも学びますが、もちろん全てのあらゆる病気や障害について理解することはできません。むしろ知らないことの方が多くて当たり前であり、研修の中で学んだことであっても、それを現場ですぐに役立つかというと疑問です。現場で利用者さんと向き合う中で、知らないことが出てきたら、自分で調べたり、専門の方に聞いたりして学んでいくというのが正しい姿勢だと思います。

 

だからといって、全く無知なまま現場に出れば良いかというとそうでもなく、やはり前もって知っておくと良いこともあります。医学分野を教えてくれている村井先生は、「皆さんが今日学ばれたことはあくまでも知識です。知らないことを知ることから始まるのだと思います。その知識をもって現場に立ち、実際に関わるようになると、本物の知識に変わります。それがとても大切なことなのです。まずは何者にも恐れず、何ごとにもチャレンジしてみてください」と語ります。

 

メイスーン・ザイードさんの話が心を打つのは、彼女が何者にも恐れず、何ごとにもチャレンジしてきたからだと思います。脳性まひによる障害があるからできないではなく、何ができるのかと考え、「わたしにできないことはなく、叶えられない夢はないと確信しました」と語るのです。その道のりは決して平坦ではなく、誰にでもできることではないのかもしれませんが、それでも「私ができるなら、あなたもできる」という最後のメッセージには嘘やハッタリはないと思うのです。