「動かない」と人は病む

ICFの概念をかなり昔から提唱されてきた大川弥生さんの最新作。「動かないと人は病む」というタイトルに有無を言わせない説得力があります。専門書ではなく新書ですので、分かりやすい事例や表現を用いつつ、現在の医療や介護の世界で起こっている問題を提起し、さらにこれからの高齢化時代における新しい常識を提案しています。リハビリ関係者には当たり前のことかもしれませんが、ぜひ多くの人々に知ってもらいたい、充実した生きがいのある人生をつくるための知識や知恵が書かれています。

 

サブタイトルにある生活不活発病とは、日常の生活が不活発なことが原因で起こる全身の機能低下のこと。病気やケガをしたときに安静状態が続くと、心身機能が著しく低下してしまいます。分かりやすく言うと、体も頭も使わないとなまる、動かないと動けなくなるということです。代表的な症状としては、筋委縮や関節拘縮、褥瘡(じょくそう)、骨粗しょう症などが挙げられます。

 

かつては「廃用性症候群」と呼ばれていて、私がかつてホームヘルパー2級講座を受けたときもそう習いました。そのとき廃用性という言葉に多少の違和感を覚えましたが、適切な表現ではないということで、大川弥生さんが生活不活発病という名を提唱されたそうです。たしかに同じことを表現するのでも、廃用性症候群だとマイナスのイメージばかりであるのに対し、生活不活発病はこれから良くしていこう(いける)という意欲が湧きますね。

 

著者はこの生活不活発病を、東日本大震災の被災地における高齢者の支援にあり方にも見ています。宮城県南三陸町と岩手県大槌町の調査によると、被災地の高齢者の3割は震災前よりも歩行が困難になっているそうです。

 

あるボランティアが食事の配膳をしていたとき、高齢の被災者の方が「手伝いましょう」と立ち上がったところ、ボランティアは「僕たちの仕事ですから」と言って、その方に座ってもらったというシーンを例に挙げ、上げ膳据え膳の支援ではなく、被災者が主体となる環境を整えることの大切さ、そして人を支援することの難しさを語ります。

 

生活不活発病は誰にでも起こる病気です。できるだけ早く、専門家と手を携えて、できることから始めていくリハビリテーションを著者は提案します。病気やケガをしたらまずは安静第一という誤った常識を捨て、早期離床、早期歩行をうながす新しい考え方です。

 

生活不活発病の克服はそれ自体が目的ではなく、「より良い人生、充実した生きがいのある人生をつくること」こそが目的であると著者は強調します。充実した生きがいのある人生とは、つまり社会参加が活発な状態のこと。その状態を支援するために、私たち介助者は、「手伝う」か「1人でやってもらう」かの二者択一ではなく、「適切に介助しながらやってもらう」方法を身に付けるべきなのです。