それは誰のための仕事?

先日、卒業生から電話をいただきました。今は知的障害のある方の支援をする仕事をしながら、実務者研修に通って勉強しているとのこと。久しぶりに明るい声が聞けて嬉しかったのですが、そのとき彼女はこんなことを言っていました。「今、距離感の問題で悩んでいます。利用者さんがなついてくれて、私の周りに集まりすぎて、ベテラン職員の方からは、『業務に支障があるから、距離感について考えた方がいいよ』と言われてしまったんです」と。彼女のパーソナリティを知っている私には、その現場の様子を鮮明にイメージすることができましたし、あるあると思いながら、その話を聞きました。

 

というのも、私は子どもの教育にたずさわっていたことがあり、教育の現場でも同じようなことが起こっていたからです。新しく入ってきた先生に子どもたちがなつき、その先生の周りには人だかりができる。その様子を見たベテランの先生が、「あれじゃあ仕事にならないな」とか言って、新人の先生に子どもと距離を取るようにアドバイス。新人の先生はそれを真に受け、子どもたちと距離を取るようになり、気がつくとベテラン先生と同じように普通の業務をこなすだけの毎日を送るようになる。そういった場面や状況は、どこの職場にもあるのではないでしょうか。

 

そこにはベテランの先生方の嫉妬心があるケースが少なくありませんでした。なぜ自分のところではなく、生徒たちはその先生のところに行ってしまうのか。そう思ったときに、自分にはないものを彼、彼女らが持っているとは考えずに、そんなに丸ごと関わってしまうと他の業務がおろそかになってしまうといった具合に問題をすりかえてしまうのです。本当はベテランの先生も気づいているのかもしれません。彼や彼女たちには、明るさや人間的な魅力があり、ひとり1人と向き合う姿勢があり、そしてその仕事に対する情熱があることを。子どもたちはそういったものを全身で感じ、自然とその先生のもとに集まってしまうのです。

 

生徒が集まる先生が経験を積み、時と場合によって距離感を使い分けられるように成長することはできますが、その逆はありえません。人間的な魅力やホスピタリティや情熱に欠ける先生には、生徒さんが寄ってこないので、どう頑張っても生徒との距離を縮めることはできないのです。ですから、新人の先生にせよ介護職員にせよ、最初に最も大切にすべきは、生徒さんや利用者さんにどこまで寄り添えるかということだと思います。

 

最後に、看護師の藤田先生がおっしゃっていたことが参考になるかもしれません。この仕事には「介護」と「業務」のふたつがあるそうです。「介護」は他人(利用者)のためにやる仕事、「業務」は自分のためにやる仕事。つまり、誰のための仕事かということ。同じ仕事をするにしても、それを「介護」としてするか、「業務」としてするかはあなた次第。ベテランになると、「業務」ばかりになってしまっている自分に気がつきますが、「介護」をするために「業務」の時間を極力減らすべきであって、「業務」をするために「介護」を避けるのは本末転倒です。目の前にいる利用者に寄り添い、利用者様のために何ができるのかを考え、それを実行していくのが「介護」の仕事なのです。