「親を、どうする?」

おひとりさまのカスミと共働きのハルカ、シングルマザーのサヨ、3人が集まると、年々増えてゆく、両親の具合が悪い話や介護の話。親世代の喪中ハガキも多くなり、さらには自分たちの四十肩や階段を上がると息が切れる話に飛ぶ。そんな誰にでも訪れる、どこにでもある日常の風景を深く切り取っている素敵な内容です。それぞれが人生の中で直面する、親の老いや死、三者三様の介護の問題が実にリアルに優しく描かれています。介護のマニュアル本ではありませんが、介護にまつわる家族の不安にそっと寄り添ってくれるような大人のコミックに仕上がっています。

 

カスミは未婚で実家に両親と住んでいます。祖父が倒れて半身不随になってから、3年間の入院生活を経て、昔は太鼓腹でタヌキのようだったおじいちゃんが痩せこけていく姿を目の当たりにして驚くとともに、自分がおじいちゃん似であることに気づきます。そうこうしていると腰が痛くなり、急に動けなくなった母の面倒を見ることに。カスミはこう思います。

 

「『自分ばかり』そんなふうに思ったことはない。人は順に歳を取っていく。めんどうをみたら、今度は自分がみられていくもの。お母さんたちは自分の親の世代のめんどうをみ、私の世代はお母さんたち世代のめんどうをみ、そしてあたしのことは…、ん?まてよ、もしかしてあたしには順番がこない?」未婚率が上昇しつづける日本社会において、子どもにめんどうをみてもらうことができない人たちの問題はこの先増えていくはずです。

 

ハルカは10歳年上の旦那とその母と暮らしていますが、その母が認知症になってしまいます。旦那は仕事が激務で家にいることがほとんどなく、義母とほとんどの時間を共有するのはハルカ。日常生活を共にするうちに、義母の様子が少しずつおかしくなっていくことを感じ始めますが、旦那はその変化に気づかず、徘徊をしていつまでも家に帰ってこなくなる事態が発生してようやく認知症のテストを受けることになります。そうした経緯や義母との人間関係の中で、問題はいろいろあるけど、とりあえず今日は家族が笑顔で良かったと幸せを感じることができるようになるのです。

 

サヨは離婚して中学校3年生の男の子を一人で育てています。そんな中、突然、父親がガンになり、余命半年の宣告を受けてしまいます。お酒が大好きな元カメラマンの父は、延命措置をすることなく自宅で最期を遂げることを希望します。エンディングノートを書き、遺影を撮ろうという話になり、家族が集まります。ふざけて撮った家族の写真が、あとになって分かるのですが、父親の宝物としてパソコンの中のエンディングノートに保存されていたのです。「オレの人生は捨てたもんじゃなかった」と言い残して、父は息を引き取りました。

 

これら3つのストーリーを読んで、他人ごとではないと感じる人も多いのではないでしょうか。これから先、人ごとではなくなっていく方もいるはずです。全ての家族が、人生のどこかで、必ず介護に直面します。誰にも言えない不安は尽きなくて当然だと思いますが、著者が取材を進めていく中で、誰もが最後に言う言葉があったそうです。「大変だったし、辛いこともいっぱいあったけど、介護を経験できてよかった」。それでも希望はたくさんあるよと、このコミックは語りかけてくれています。