理想と現実(前篇)

湘南ケアカレッジの卒業生が辞めてしまったという話を、施設の人事担当の方から聞きました。ふとしたきっかけで知ったのですが、その話を聞いたとき、正直私は驚きました。なぜかと言うと、その卒業生さんが、研修の最後に「これから介護の仕事をするのが楽しみです。頑張ります!」と私に宣言して、教室を去ったからです。彼女はまだ10代でしたが、とても真剣に研修に取り組み、介護技術の飲み込みも早く、こういった若い人たちがこれからの介護・福祉の世界を変えていくのだろうと思わせる、意欲の高い生徒さんでした。だからこそ、入職してすぐに辞めたという事実は、私にとって不思議でなりませんでした。

 

不思議に思いながらその人事担当の方の話を聞いている中で、「若い人は理想が高すぎるんですよね。現実をしっかりと見ないと」という発言が心に残りました。一見、おっしゃっていることはまともですが、辞めてしまったのは彼女が一方的に悪いというニュアンスがどうしても引っ掛かったのです。なぜ彼女が1ヶ月で辞めてしまったのかという理由を考えることなく、現実に合わせられなかった彼女に非があるように私には聞こえたのです。

 

私が彼女のことを知らなければ、その人事の方に同情したかもしれません。でも、たった15日間でしたが、彼女のこの世界に賭ける想いを私は見て、知っていたので、彼女に見切りをつけられてしまったその施設の方にこそ、大きな問題があるのではと直感したのです。彼女がそこで何を見て、何を聞いたのか分かりませんが、ここでは働けないと感じたのでしょう。そのことを示すように、「私は介護の仕事は好きですから」と言って辞めて行ったそうです。

 

「理想と現実のどちらを取りますか?」と問われれば、私は迷うことなく理想を取ります。極端な理想というと、ジョンレノンのイマジンの世界になってしまいますが、極端な現実ばかりでは、この世の中は生きづらい暗黒の世界になってしまうはずです。現実とは今ここで起こっていることですので、非常に強い引力を持ち、抗えない力として私たちを縛ることがありますが、それでも私たちは理想を抱きながら生きていかなければ、未来が明るくなるはずがありませんよね。特に私たちのような教育にたずさわる人々は、まずは理想が先になければなりません。

 

私たちに必要なのは、現実を見ることではなく、理想を持ちながら現実をそれに合わせていこうとすることです。働く人を現実に合わせようとするのではなく、組織として、チームとして、一体となって現実を(そうあるべき)理想に近づけようとしていかなければならないのです。その過程において、ときとして理想を現実に近づけなければならないことも多くあるはずですが、そういった歩み寄りを繰り返しつつ、少しでも良くして行こうとするのが働くということだと思うのです。少しでも早く、彼女の働ける場が見つかることを願います。