理想と現実(後篇)

どんな仕事や業界にも、理想と現実はあります。教育の世界にも、飲食業の世界にも、カメラマンの世界にだって、理想と現実は存在するのです。そして、理想と現実のギャップに苦しみつつも、それを変えていこうと行動する人がいれば、流されていつのまにか現実に合わせてしまう人もいるのも、どの世界も同じ。それでも、介護の世界が特に理想と現実の差が激しいと言われる(思われている)のは、決して理想が高すぎるわけではなく、現実が酷すぎるわけでもなく、ただ単に未(成)熟だからなのだと思います。介護保険制度の仕組みの中で行われるようになって、まだ14年しか経っていない、発展途上の業界と言えるのです。

 

先日、別の卒業生からメールをもらいました。今デイサービスで働いており、そこの労働環境がお世辞にも良いとは言えず、このまま介護の仕事を続けていくか、それとも別の道を歩むか迷っているという内容でした。具体的には、職員の配置がギリギリであり、何かちょっとしたトラブルが発生すると対応しきれず、サービス残業は当たり前。福祉のこころを持てと言われても、誰もが苦しくなってきて、誰かが辞めてしまっても穴埋めはなく、より状況は悪化してしまうという悪循環。利用者様や一緒に働いているスタッフは良い人たちばかりだけど、だからこそ余計に悩みは深いとのこと。

 

実際にその現場で働いてもいないのに、こうした方が良いなんてアドバイスすることはできませんが、もしできるならば、少しずつでも変えていってもらいたいと思います。今すぐでなくてもいい。介護職員初任者研修を受けて現場に出て、すぐに何かを変えられるかというと正直難しい。どの業界でも同じですが、やはりある程度の現場経験を経て、力をつけた上で、そこから身の周りの困りごとをひとつずつ変えていくことです。実は誰もが変えたいと思っていた、なんてことは案外多いもの。大切なことは、そのタイミングが来るまで、現実に負けずに理想を抱き続けることです。

 

ここまでは個人レベルの話ですが、組織やチームとして大切なことは、理想を掲げることです。それをビジネス用語ではビジョンと言ったりします。今、大きな問題だと思うのは、ビジョンがない(あっても形骸化している)組織やチームがあまりにも多いということではないでしょうか。分かりやすく言うと、「何がしたいのか分からない」、「どこに向かっているのか分からない」会社や学校やサービスが多すぎるのです。リーダーや働く人々の言動からも、扱っている商品からも、ホームページや広告媒体からも、「何がしたいのか」、「どこに向かっているのか」が、何も伝わってこないのです。

 

たとえばデイサービスにおいて、利用者様に幸せになってもらうことがビジョンであるなら、そこで生活を共にする職員がまずは幸せでなければなりません。職員にやりがいを持って健康に楽しく働いてもらうためには、どうすればいいのか。ビジョンから逆算していくことで、人やお金等のマネジメント(やりくり)が生まれます。お金を儲ける(稼ぐ)ために介護をしているのであれば、それは順序が逆です。理想があるからこそ現実も変えられるわけであり、常に理想が先にあるということです。私たち湘南ケアカレッジは、誰に何と言われようが、理想を追求し、伝えていきたいと思います。