介護職員初任者研修における、「食事に関連したこころとからだのしくみ」の授業の中で、先生方から生徒さんたちに心ばかりの差し入れがあります。何かの液体が入った小さな紙コップがひとり1人に配られ、手に取った生徒さんたちは中身を見ずに、(先生方を信じて)全員で乾杯をします。一気に飲み干す方もいれば、まずは口をつけてみてから少しずつ飲む方も。そしてしばらくしてから、何とも言えない歓声がジワジワと湧き起ります。美味しいとも、不味いとも、何とも表現しづらい感想をそれぞれに持つようです。
タネ明かしをすると、小さな紙コップの中身は緑茶にとろみをつけたものです。とろみをつけたい量の1~2%程度のとろみ剤(今回はトロミーナを使いました)を入れ、よくかき混ぜます。しばらくすると、もう見た目で分かるぐらいのとろみ感が出てきます。とろみ剤の割合によってとろみ感は変わってくるのですが、それ以外にも、(とろみ剤によっては)味や匂いや食感が変わってしまうことがあります。実際に私も飲んでみたところ、味や匂いはほとんど変わりませんが、少しだけ舌で受ける感触に違和感がありました。
とろみ剤にも様々な種類があり、昔に比べると、質もかなり良くなってきています。第1世代、第2世代と呼ばれていた頃のとろみ剤は、味や匂いや食感、そして彩りさえも大きく変えてしまうため、せっかくの食事の楽しさが失われてしまうということもありました。溶け切らずにダマになってしまったり、食事が終わったあとに洗い流すのも困難である場合もありました。現在、第3世代と呼ばれているとろみ剤はそのあたりが解消されており、味や匂いや食感をほとんど損ねることなく、しかも介護者にとっても使いやすいものに改良されています。
とろみ剤を使う目的は誤嚥を防ぐことです。高齢になってくると、摂食・嚥下の機能が衰えますので、気管へ誤って食物が入り、誤嚥を起こしてむせたりします。高齢者が誤嚥しやすいものには、水、お茶、ジュースなどの液体や酸味の強い酢の物などがあります。固形の食べ物と違って、水分や汁物は1秒間であっという間に嚥下されますので、とろみをつけて、ゆっくりと飲み込んでもらうことが、摂食・嚥下機能が衰えた高齢者によっては必要になってくるのです。
このように、私たち介護者自身も、とろみ剤を使ってつくられたとろみのあるものを口にしてみて、初めて知ることや学ぶことがあります。とろみのついたものを飲むのはどういう食感なのか。ただ誤嚥を防ぐためにとろみをつければいいではなく、とろみをつけなければいけないとすれば、それでも変わらず美味しいと思ってもらえるようにするには、どのような工夫をするべきなのか。いろいろと考えることは尽きません。安全や安心に配慮しながら、食事はできるだけ美味しく、そして楽しく召し上がっていただきたいですよね。