最後の3つめは、かなり具体的な提案になりますが、副業をすることです。介護の仕事をとはまた別の仕事もするということです。さらっと書きましたが、かなり真面目にそう考えていて、今回いろいろ考えてみた末の現実的な着地点だと思っています。賛否両論あると思いますが、専門性を高めて伝えるよりも、介護保険料と自己負担を上げるよりも、短期的かつ主体的な効果があります。そして、副業をすることによって、給与(収入)が増えるだけではなく、違った経験やノウハウや人とのつながりを得ることができ、本業である介護職にも良い影響がもたらされ、実は社会的な地位も高まってゆくという相乗効果が生まれます。
副業とはいっても、私がここでいう副業は、単なる仕事の掛け持ちとは意味合いが少し違いますので、まずその点について説明していきたいと思います。できれば、副業をする際は、自分の好きなことや趣味にまつわる分野の仕事が最適です。誰しもが介護以外にも好きなことや熱中できること、他の人よりも良く知っていることなどがあるはずです。そこの分野に時間や労力などの資源を投入してみてください。たとえば、湘南ケアカレッジで講師をしている金子先生は、介護職として活躍する傍らで大道芸を始めました。空いている時間で練習して、休日は公園などで技を披露する。最初は全く収入にはなりませんでしたが、今や東京都公認の大道芸人です。
副業(禁止)規定があるからという反論もあるかもしれませんが、そのような前時代的なものは知らないふりをすれば良い話です。副業禁止の規定は、給与が年齢とともに確実に上がっていくことが保証され、かつその給与で十分に家庭を持つことができるという社会や企業があった時代のおとぎ話の中のものです。私も実際に副業規定がある企業で堂々と副業をしていました。そもそも副業をしていると言わなければ良いだけですし、たとえそれが知れたところで、介護の業界は人手不足なのですから、誰もとがめる人はいませんし、見て見ぬ振りをしてくれますよ(笑)。
幸いなことに、介護の仕事は他の産業のブラックな産業に比べて、残業も少ないはずです。かつて私が働いていた企業のように、月の残業が200時間以上で労働時間が500時間以上、しかも残業代は出ないという環境ではありません。自分の生活を見直してみると、かなりの時間的余裕があるはずですし、つくれるはずです(子育てや主婦などすでに兼業をしている人は除く)。なぜ単なる仕事の掛け持ちではなく、好きなことや趣味にまつわる仕事をした方が良いとしたかというと、時間をつくってまで自分のしたくない仕事を2つもする方は珍しく、長続きしないからです。休みを削ってまで、時間をつくってまで取り組めることでなければ成立しません。
つまり、分かりやすく言うと、介護×□ということです。このかけ算によって、その人の世界は圧倒的に拡がります。知識や見識、ノウハウを得るだけではなく、新しい人たちと仕事をする機会が増え、人脈も広がり、人格形成にも役立つはずです。1つの世界にいたら見えてこなかった新しい何かを手に入れ、それらを掛け合わせることで、介護職の部分にもプラスの影響として返ってくるのです。簡単なことではないかもしれませんが、最も怖いのはひとつの世界にしか生きられないことです。そして何よりも、かけ算をすることで、その人は唯一の存在になることができます。介護職だけであれば全国に五万といますが、大道芸ができる介護職は片手で数えられるほどでしょう。唯一の人間になると社会的地位が高まるのは自然なことです。
どうすれば介護職の給与と地位を上げていけるかというテーマについて、ここまで長らく書いてきましたが、残念ながら全ての介護職の給与と地位を上げる魔法はありません。それでも、様々な方々に話や意見を聞いていく中で見えてきたのは、介護職の専門性を高めていくこと、そしてそれを知ってもらうという地道な努力をそれぞれが心掛けることは当然として、現実的な着地点としては副業をした方がよい、いやするべきだという結論に達しました。□のところに何を当てはめるかはその人次第です。介護×講師、介護×マンガ、介護×乗馬、介護×コーヒーショップ、介護×音楽、できれば□の部分でも収入を得られるレベルであると掛け算の効果が高まりますし、その理想を目指すべきだと思います。