どうすれば介護職の給与と地位は上がるのか?(後篇)

2つめの提案は、介護保険料と介護保険の利用者負担を上げてもらうことです。介護の業界自体が介護保険制度の中にあり、介護職員の給与も税金の中から支払われます。現状として全体のパイが決まってしまっている以上、介護職員の給与だけが劇的に上がることは考えづらく、全体の収入を増やしていくことにしか、具体的に給与をアップさせる方法はありません。ただでさえ介護費が膨張しているのに、介護職員の給与を上げるとなると、介護保険料を上げるだけではなく、利用者の自己負担も増やしていくことも必要になります(来年8月から、介護保険の自己負担は1割から2割に上がります)。つまり、高福祉、高負担ということです。

 

たとえば、デンマークのように、所得税が50%で消費税率が25%という形で福祉社会を維持している国もあります。こういった高福祉、高負担の制度が良いか悪いかは、個人によって考え方、感じ方は違ってくると思いますが、暮らしやすい社会であることは間違いなさそうです。日本は課題先進国として、デンマークのような社会制度設計へと舵を切っていかなければならないはずで、良いところは真似をしていけば良いと思います。高福祉を実現するためには、まずはそのサービスの中核を担う介護職員が安心して生活できる環境が何よりも必要です。

 

でもそう簡単には行かないでしょう。なぜなら、日本の世代別人口構成のいびつさと富の偏在が理由です。分かりやすく言うと、日本は世界にも稀にみる高齢社会であり、この先10年かけて3人に1人が高齢者という国になっていきます。そして、何よりも問題なのが、1500兆と言われている日本の個人金融資産(不動産は除く)の8割は60歳以上の世代によって占められていることです。今の若い世代、または40代前後の世代の人々に、これ以上の金銭的な負担を強いるのは難しく、もはや人材的にも経済的にも昔のように若者が高齢者を支えることができないということです。

 

そうなると、(時と場合によりますが)高福祉を実現するためには、高「自己」負担を強いることになります。これまでの日本社会では問題を先送り(未来の若者や子どもたちに押し付ける)してなんとかやってきたので、いきなり自己負担増となることに理解を示さない人は多いはずです。それでも、そう遠くない日に、若者たちが少なく、貧しく、自分たちを支えきれないことに気づかざるを得ないときが来ると思います。1人あたり3000万円と言われる金融資産を自らの介護のために気前良く使ってもらうしかないということです。

 

そうやって福祉の財源や介護報酬を増やしたところで、果たして介護職員の給与が上がるかという疑問もあります。個人的には、たとえ全体のパイが増えたとしても、それが給与に直接反映されることはないと私は思っています。おそらく施設の内部留保がさらに増えたり、事業所の経営が少し潤うだけで、介護職員の給与が劇的に変化することはありません。それはそういうものだからです。介護職員が自分たちの手で決められないものはアテになりません。介護保険料や介護保険の利用者負担等の問題についても同じことで、自分たちの手の届かない政治的なことは、根本的な改善策にはならないと私は思います。提案しておいて申し訳ないのですが、これは単なる机上の空論にすぎませんね。

 

(最終回へ続く→)