認知症の母との日々を描いた漫画「ペコロスの母に会いに行く」の続編です。海辺の施設に入っている母を訪ね、何をするでもなく過ごすひと時、過去と現在と未来が交錯し、まるで玉手箱の中に迷い込んでしまったような物語が綴られています。亡き父がふと現れて、酒癖が悪かったことを謝り、母はそれを許す。息子の名前も分からなくなり、子どもに戻ってゆく母を、暖かな目で見守る兄弟たち。もしかしたらこうなのかもしれない、こうあってほしいと願ってしまうような心豊かな時間がそこには流れているのです。
この漫画を読むと、世代の交代をつくづくと感じます。両親が若かったころ、つまり自分たちが子どもだったころ、そして両親が子どもだったころの思い出が現れては消える中、いつの間にか両親は年老いて、私たちは親になり子どもを育てている。立場や役割が変わったというよりは、母親の手を握っていた私たちが今度は手を握られる母親になる、私たちが彼ら彼女らになったという感覚です。そして、彼ら彼女らと同じように、私たちも年老いてゆく。それは決して悲しいことではなく、自然の流れなのです。その流れの中で、両親に対する感謝が深まってゆくのです。
玉手箱の中に入った宝物のような話ばかりの中でも、ひとつだけ紹介させていただくとすれば、「時をさかのぼる人」です。
切ないけれど心は豊かで、時代の息吹も感じられ、実に文学的です。今目の前に見えていることだけが現実ではなく、そう見えるのは私たちだけで、見えない世界に思いを馳せるとたくさんのものが見えてくる。そんな大切なことを、ペコロスは母から学び、私たちにも教えてくれているのです。
あとがきにもあるように、この本の制作中に母・みつえさんは亡くなってしまいました。追悼の作品でもあるのですが、そんな哀しさを微塵も感じさせないのが、「ペコロスの母シリーズ」の大ヒットの理由のひとつである気がします。ペコロスの母が最期に、先立った夫に抱えられ、想い出のパラシュートに乗りながら、空にゆっくりと落ちて行くシーンは圧巻です。ぜひ読んでみてください。