The Thing Is, I Stutter.

感動的なプレゼンテーションを観ました。Eテレの「スーパープレゼンテーション」という番組の中で、iPS細胞を発見した山中伸弥教授が紹介されていた、ミーガン・ワシントンさんによるものです。ミーガン・ワシントンさんはオーストラリアの人気歌手であり、その歌っている姿を見ると、至って普通のアーティストなのですが、彼女が檀上で語り始めると少しずつ真相が明らかになります。彼女は生まれながらの吃音症(どもり)を抱えており、そのせいで人の前で話すことに対して極度の恐怖心があるそうです。勇気を振り絞ってメッセージを届けようとする姿を見て、私は涙が止まりませんでした。そして、彼女が最後に歌いだしたときの感動は言葉では表せないものがあります。


このプレゼンテーションの素晴らしさには、いくつもの理由があります。そのひとつとしてまず思い浮かぶのは、自分の弱みを語っているということです。しかも、彼女の場合は、自分の弱みを都合の良く加工してから見せるという表面的なものではなく、大衆の前で語ることですでに自分の弱みをさらけ出すことになるのです。自分の弱みをさらけ出したとき、何が怖いかというと、相手からどのような反応が返ってくるか分からないことです。ミーガン・ワシントンというアーティストに対するイメージが壊れてしまうかもしれないし、指を差して笑われるかもしれないし、内心では蔑んで見られてしまうかもしれない。そのような恐怖を乗り越えて、自分の弱みをさらけ出すことは、誰にでもできることではありません。

 

さらに彼女のプレゼンテーションにはユーモアがあります。ゲラゲラと笑えるようなギャグではなく、ぱっと見ると悲しい状況や苦しいことを、面白おかしく解釈し、笑いに変えたものです。吃音症がある彼女にとっての最悪の瞬間は、同じく吃音症がある人との初対面のときだそうです。「ぼ、ぼ、ぼ、僕の名前は…ジェームスです」と言われたとき、「わ、わ、わ、私の名前はミーガンです」と真面目に返すと、相手からはからかっていると思われるというエピソードは、その状況が目に浮かぶようです。同じ場面や状況でも、その人の考え方や視点の違いによっては、辛く悲しいものにもなれば、楽しく愉快なものにもなります。それを選ぶのはその人次第なのですね。

 

最後に彼女がスピーチを終え、ピアノの前で歌いだしたとき、それまでの全てが伏線となって、彼女の歌は感動的なものになります。音符ひとつひとつに、歌詞のひとことひと言に彼女の人生が込められているような、彼女にしか歌えない音楽が奏でられるのです。彼女がこうしてたくさんの人々に音楽を届けられるようになったのは、彼女が吃音症を克服するために小さい頃からずっと歌い続けてきたからだと言います。ネガティブやマイナスのこともポジティブでプラスなことに転じることができる、それらは両極にあるのではなく、裏表の関係なのだと。彼女がスピーチし歌うことを通して、彼女はその明暗について伝えようとしたのだと思います。