「かかわり方のまなび方」

「自分の仕事をつくる」「自分をいかして生きる」に続く、働き方研究家である西村佳哲さんによる、今回はワークショップやファシリテーションの現場から考えた「かかわり方のまなび方」という著書です。著者は働き方を研究しながら、ワークショップ等を開催しているうちに、次第に人とのかかわり方に疑問を感じ始めます。たとえば、ワークショップにおいて講師を務めていると、自分が発言した言葉をいつの間にか参加者も使うようになることに気づきます。本来であれば、参加者自身が考えたことが溢れ出ることが理想であるにもかかわらず、講師である自分が発した言葉が大きな影響力を持ってしまっていることに愕然としたそうです。そこから、どのようにすれば相手と上手くかかわることができるのかに興味は移っていき、「働き方」から「かかわり方」、「きき方」の研究を始めたのでした。


本書は、力を引き出すのがうまい人やあの人がいると伸びると言わせる人たちと著者とのインタビューが半分、そこから著者による論考が半分という構成になっています。冒頭に(しかもまえがきの前に)自殺防止センターの西原由記子さんのインタビューが掲載されていて驚かされますが、その内容にあっと言う間に引き込まれてしまいます。西原さんは、人には死ぬ権利があり、死ぬという決断を尊重するという、一見論理矛盾してそうな自殺防止センターの所長ですが、彼女のインタビューからは本当の意味において聴くということが分かります。聴く、正直に伝える、そして待つ。これが人とのかかわりにおいて大事だと彼女は言うのです。

 

西原さん以外の複数人のインタビューの中で、多くの人々が言及している心理学者のカール・ロジャース氏がいる。ロジャースが提示した対人関与の姿勢や態度を指すパーソン・センタード・アプローチというものがある。「人はある条件が揃いさえすれば、自分が進む道筋を自分自身で見つけ出していく能力を持っている」ことをロジャースは確信し、その条件とは「共感」「無条件の肯定的尊重」「自己一致」の3つだそう。この3つが揃うと、私たちは人と人の対話の中で、お互いに育ち合う関係になることができます。介護職員初任者研修の授業の中でも出てくるキーワードでもあり、つまり介護の世界だけではなく、私たちが生きて、人とかかわってゆく中で必要な考え方ということですね。

 

あとがきにおいて、著者は自身が行ってきた授業やワークショップを振り返って、こう記しています。私たちが学校はどうあるべきか、授業はどのようにすべきか、どのように生徒さんたちと関わっていくべきかを考えるとき、大きな示唆を与えてくれると思うので最後に引用させてもらいたい。

「僕らは大半のことを忘れてしまう。でも忘れてしまえるから生きていけるし、そもそも思い出せるものだけで生きているわけではないし。(中略)

 

一つひとつの授業やワークショップの主旨や内容よりも、その中で本人が温まったかどうかということのほうがその後の人生にとってよほど重要で、それはどんな人と、どんな時間を過ごすことができたか、どんなかかわり合いを持ちえたか、によるところが大きいんじゃないかと思う」