「海街diary」

吉田秋生さんによるマンガを原作として、是枝裕和さんが脚本・監督を手がけた作品です。是枝監督がマンガを映画化するとどうなるのだろうと半ば心配していましたが、原作者の吉田秋生さんが言うように、まさに「幸せな時間」でした。カンヌ映画祭で賞を取った前作「そして父になる」よりも個人的には好きで、それはやはりこの映画の持つ幸福感ゆえだと思います。四姉妹だけではなく、登場人物たちにはそれぞれ事情があって、それでも凛として生きている姿が、鎌倉の四季の自然の動きを背景に際立ちます。自然の美しさに比べたら私たちの人生や日常など小さなもの。この映画では多くの死が扱われていますが、それは生との対比ではなく、自然や生の一部なのです。


四姉妹の長女である幸(綾瀬はるか)は看護師として病院で働いています。小さい頃から、父と母の両方の役割を担って、姉妹を背負って生きてきて、もちろん自分にも厳しいのですが、他人にも厳しい。自分たちを捨てて家を出ていった実父を「優しいけど、ダメな人」と断罪しているにもかかわらず、気がつくと、医師と不倫関係にあり、自分も似たような状況にある。さらに腹違いの妹には、「奥さんがいる男の人を好きになるなんて、私のお母さんダメだよね」と言われ、自己矛盾に対する葛藤に幸は苦しむのです。そんな幸がある日、ターミナルケア病棟への異動をもちかけられます。

 

ターミナルケアの現場で、幸は普段は仕事ができないスタッフの思わぬ優しさを知りました。亡くなった人に声をかけながら弔うスタッフに、自分の知らなかった一面を見たのです。人の良くないところばかりを見てきた自分に気づき、人の死と向き合ったことで、人のダメな部分を許すことも大切だという考えに至るのです。

 

人の死の前では、誰にも批難されないきちんとした生き方なんてものは大して意味がなく、いろいろあったとしても全ては些細なことであり、最後はサクラが綺麗かどうかなんてことが意味を持つのです。人に寛容であることは、人に厳しくあるよりも難しいことを知り、幸は実父のことを「ダメだけど、優しい人」であったと思うようになりました。その過程を通して私たちも、「何もないより、いろいろあった方がいい」と最後には思わせられるから不思議です。

 

全編を通して、日常を生きていることの美しさが丁寧に描かれています。ひとり1人の役者さんたちも見事に演じていて、映像も美しく、鎌倉に住みたくなりました。