「風に立つライオン」

「ケアカレ図書館に置いてください」と言って、卒業生が持ってきてくださった本です。さかのぼること、私がこのブログにて紹介したさだまさしさんの曲を聴き、別の卒業生が興味を持って本も読んでくださり、それが回り回って私の手元に届いたのです。運命のような本と言ってよいかもしれません。350ページほどある長編小説ですが、あっと言う間に読み切ってしまいました。ケニアの戦傷病院で働く日本人医師・航一郎を、ゆかりのあった周りの人々が語るというスタイルながらも、すぐ手の届くところに航一郎がいるように感じ、その人間の温かさ、そして困難に立ち向かう勇敢さが伝わってくるようでした。医療や福祉にたずさわる人間はこうありたいと願いますし、私も航一郎のように生きてみたいと思わせられました。


私は航一郎とは対極にあるような、石橋を叩いて、渡らずに壊す、と言われていたほど慎重で臆病な人間です。そんな私が、こうして自分で学校を始めたのですから不思議です。私をよく知る周りの人々には今でも驚かれます。正直に言うと、独立したくて独立したわけではなく、リスクを背負いたくて背負っているわけでもありません。むしろ自分でやらざるを得なかった。こうあるべきという理想の形に近づけていくためには、自分でやるしか道がなかったのです。それでも、いくつかこれまでにチャレンジをしてきた(せざるを得なかった)中で、教えてもらったことがひとつあります。それは新しいことにチャレンジしたり、正しさを追求しようとしたりすると、必ず目の前には困難が立ちはだかるということです。

 

どんな困難が?と聞かれると、それぞれのケースによって異なりますので困るのですが、つまり私たちの思い通りにはいかない、私たちがもといた場所に押し返そうとする力が働くのです。たとえば、大きな組織の力学が働いたり、周りの人々の理解を得られなかったり、誤解をされたり、大切な人のこころを傷つけてしまったり。新しい一歩を踏み出そうとすると、そんなことをすべきではなかったと思わせるような事態が発生し、私たちの歩みを止めるのです。


航一郎は自分が悩んだときに「ガンバレ」という言葉をよく大声で叫んでいた。

 

「ガンバレ」は激励のエールだと和歌子は私に説明したが、後に航一郎が、それは「人に向かって贈るエールではない」と説明した。なぜならば人は誰でもがんばって生きているのだから、その人に「もっとガンバレ」などと他人が言うべきではない、と言った。

 

それでは誰に贈るのかと聞いたら、航一郎は「自分自身にだ」と答えた。

 

自分が情けないとき、自分の心が折れそうなときに、自分を励ます言葉なのだそうだ。


(「風に立つライオン」より)


この本を通して航一郎が語り、私の心を打ったのは、決してあきらめてはいけないということです。今、大きな困難にぶち当たっている人がいたら、それはあなたが新しいチャレンジをしているということです。それはあなたのチャレンジが間違っているということではなく、必ず困難は立ちはだかるものであり、それを乗り越えないと未来には進めないと知っておいてください。たとえ大きな力に潰されそうになっても、周りの人々に反対されようとも、誰かを傷つけてしまうとしても、自分が正しいと感じることをやり通してほしいのです。

 

「ガンバレ!」

 

そう、これは私自身にも向かって言っています。


この曲をもとに小説が書かれ、それを読んだ大沢たかおさんが映画化を熱望し、主演されたDVDが10月に発売されるそうですね。