美味しく、バランスよく

望月先生の食事の介助の授業では、いろいろな体験をしていただきます。利用者さん役の方に目をつぶってもらい、介助者役の方は無言で食事の介助をする。こうすると、声かけがなく食べさせられることが、いかに利用者さんたちにとって恐ろしいかが分かります。次に目をつぶって真上を向いてもらい、介助者役の方は立って上から食事の介助をします(危ないので小さい子は真似しないでください!)。そうすると、上を向いているといかに食べにくい(飲み込みにくい)かが分かります。さらに、目をつぶってもらい、介助者役の方はスプーンに3種類のお菓子を載せて口に運び、飲み込んでもらいます。違う種類の食材をいっぺんに食べると、いかにそれぞれの味が混ざり合って美味しくないかが分かるのです。


上に挙げた体験は、実は施設などの現場では当たり前のように行われている介助です。時間に追われて、どうしても早く食べさせたい(食べてもらいたい)状況の中、声かけをすることなくいきなり口に食べ物を運んだり、動きやすいように介助者は立って上から食事の介助をしたり、バランス良く食べてもらいたいという想いから、あらゆる食材を混ぜ込んで口に入れたり。ときには、薬を飲もうとしない利用者さんに対し、白飯に漢方などの薬をふりかけて召し上がってもらうなんていうことも。

 

たしかに、介助者にとっては、それなりの理由があって、相手のことを想っての介助ではあるのですが、食事が美味しくないことは確かでしょう。食事の目的が、食材の味や匂いや見た目の美しさを楽しんでもらうことから、ただ単に栄養を摂取することに変わってしまっているのです。そうなると、利用者さんにとって、食事は次第に好ましくない行為になってしまいます。行き着くところまでいくと、食事自体が苦痛な時間となるかもしれません。利用者さんが口を開けてくれなくなるのには、ちゃんとした理由があるのです。

 

そういえば、うちで飼っているトイプードルも最近、ドッグフードを全く食べなくなりました。小さい頃は、美味しそうに、あっと言う間に平らげてしまうほどでしたが、ある時を境として残すようになり、今はもう見向きもしなくなりました。ドッグフードに飽きてしまったのか、それとも他にもっと美味しい食べ物があることを知ってしまったからなのか。今となっては、私たち人間が食べているお肉やお魚、お豆腐、お芋などをねだります。たしかに、味気のないドッグフードと比べれば、見た目も味も実際に美味しいのでしょうね。

 

とはいえ、やはり人間が食べているものは犬の身体には良くないらしく、長い目でみれば病気につながるリスクがあります。対してドッグフードは、栄養のバランスが良く、長生きできるそうです。美味しすぎるものは体に良くないのは、人間の食べ物も犬のそれも同じなのですね。

 

そこで私が思いついたのは、ドッグフードにたとえば好物のシラスを混ぜ込んで、両方を食べてもらうという方法です。でも、よく考えてみると、私もやってはいけない食事の介助と同じことをしていますね…。食べさせることが目的となり、美味しく食べてもらうことは二の次になってしまっていたのです。

 

ところが、うちのトイプードルの方が一枚上手でした。なんとシラスだけを食べて、ドッグフードだけを綺麗に残しているじゃあないですか…。美味しく食事をしてもらうことと、バランス良く栄養を摂ってもらうこと。この2つの命題を、どうすれば私は両立させられるのでしょうか。