「エール!」

予告編を観たときから期待していたにもかかわらず、封切りから1ヶ月近くが経ってしまい、まだ公開中の映画館をギリギリみつけ、しかも開演時間にも滑り込みでなんとか間に合いました。「エール!」は、主人公のポーラ以外の家族(父も母も弟も)全員、聴覚障害者である家族の愛をテーマにした作品です。かつて紹介した「ザ・トライブ」も同じくろうあ者が登場人物として描かれていましたが、(良い悪いではなく)私はこちらの方が断然好みでした。というのも、「エール!」には底抜けの明るさがあり、ユーモアがあり、音楽があるからです。それらが最後のシーンに凝縮されて、ほろりとさせられる素敵な結末でした。今でもポーラの歌声が聞こえてくるようです。

 

全編を通して手話が出てくるのですが、まったく分かりませんでした。毎回、このような映画や番組を観るたびに、手話ができたら(分かったら)いいのになと思うのですが、なかなか勉強する機会がありません。全身性障害者ガイドヘルパー養成研修のアンケートで、手話や点字を勉強する研修があればと書いてくださった方もいたように、私と同じように興味がある人はたくさんいらっしゃるのではないかと思います。手話は手だけではなく、顔の表情でも意味をつくるところが面白いですね。映画の中では、主人公のポーラが友だちに悪い言葉を表情つきで教えるシーンが登場します(笑)

 

個人的には、日本とフランスの文化の成熟度の違いを思い知らされた映画でした。ちなみに、フランスは婚外子の割合が60%近く、日本の2%と比べると、家族に対する考え方がまったく違う国であり社会であることが分かります。日本が家系や結婚制度を極めて重視するのに対し、フランスでは多様な家族のあり方が許容されているということ。もともとは同性カップルの事実婚を対象としていたものが、社会全体に広がって、出生率の上昇にまでつながりました。


とはいえ、フランスでは家族が崩壊しているということではなく、この映画に描かれているような家族の強い絆もあり、形態や制度ではなく、愛情をベースにして人と人がつながっているということです。私たちは、一歩この国を出ると、全く違った考え方を持つ人々がいるということを知っておくべきだと思います。

 

それは介護や福祉の仕事にたずさわる上でも大切なことです。多様な価値観や思想を持つ人々がいて、私たちの常識は非常識であることを知っていなければ、そこには差別が生まれてしまいます。自分が間違っているとまで思う必要はありませんが、私たちがいかに狭い世界に閉じ込められていて、思い込みや偏った考え方に満ちているかを学ぶべきです。そうすることで、私たちは謙虚になり、本当の意味で他者を知ることができ、相手のために何かをすることが可能になるのです。そこには、やってあげるというお世話の介護と、自己決定をサポートする自立支援ほどの大きな違いが生まれるのではないでしょうか。

障害者の家族における深い問題をも扱っていながらも重くない、心が温まる映画でした。DVDになったときにはぜひ観てみてください。