
「できるだけ立ち止まって、あいさつをするように教えています」
もともとはバーベキュー店を営んでいることもあって、いや、だからこそ、接客を何よりも大切にしている。利用者さんはお客さまであり、私たちはサービスを提供させていただく立場である。利用者さんやその家族だけではなく、利用者さんが暮らしている施設のスタッフの方々など、周りにいる人たちは全てお客さまとして接することが必要だという。介護のサービスは公費で賄われている部分があるとはいえ、私たちは利用者さんやその周りの方々がいるからこそ、仕事ができるのである。
「その視点がなければ、うちではやっていけません」
岡本さんはそう語る。この話を聞いたとき、今、千手(せんじゅ)で働いている、ある卒業生が立ち止まって、背の高い身体を折り曲げるようにしてあいさつをしているシーンを、ふと思い浮かべてしまった。彼には失礼かもしれないが、とてもコミカルに思えて、可笑しくて、しかし美しい光景だと思えた。
◆ケアカレの卒業生ばかり
千手(せんじゅ)の代表である岡本美枝さんも、湘南ケアカレッジの卒業生である。卒業したのちに事業所を立ち上げ、旦那様と二人三脚で経営をしている。そして、千手は湘南ケアカレッジの卒業生が最も多い事業所でもある。
「ケアカレの先生方や卒業生たちで施設や事業所をつくったらいいのに」と生徒さんたちから言われることがあるが、まさに千手こそ、ケアカレの卒業生たちを中心としてつくられたような素敵な事業所なのだ。
今回の取材対象者の依頼をさせてもらったとき、「私以外もできるだけケアカレの卒業生がいいですよね~」と言いながらシフト表を見てくれ、「というか、ほとんど全員ですよ!」と笑い合ったほどだ。

◆心の内を見透かされてしまう
千手は居宅・重度訪問介護と障害者(児)の移動支援(ガイドヘルプ)を主な事業として行っている。居宅・重度訪問介護とは、重度の肢体不自由者もしくは知的、精神障害により生活上著しい困難を有し、常時介護が必要な障害者のお宅に訪問してサービスを提供すること。
食事から入浴の介助、調理、洗濯、買い物などの家事に至るまで、日常生活のありとあらゆる場面において支援を行う。事業所の名前どおり、まさにその方の手となり足となり、つきっきりで、生きることをサポートする。
「障害のある方には心の内を見透かされてしまいます」
と岡本さんは言う。
それは悪い意味ではなく、心を込めて接しなければ、明らかにされてしまうということだ。この業界には、障害のある方に対して上から目線で、そういう態度で、押さえつけるような接し方をする(ようになってしまう)人が多いとされているが、障害のある方はそのあたりに敏感である。相手のこころをよく感じている。一挙手一投足をよく見ている。相手が自分のことをどう思っているのか、どう接するのか、彼ら彼女らにとって、その見極めは死活問題であるからだ。
「私たちは支援させてもらってはいるけれど、彼ら彼女たちからいただくパワーというのは凄くて、実は助けてもらっている部分もある。だから、どちらかが一方的に支援する、支援されるの関係ではなく、人間としてお互いに普通の営みとなることが、本当のノーマライゼーションなのではないでしょうか」

◆幸せな時間
後日、 外出支援(ガイドヘルプ)のお仕事に同行させていただくことになった。養護学校が終わり、バスに乗って帰ってくる利用者の明日華さんと一緒に、その日はイオンに行って、アイスクリームを食べることになっていた。
付き添うのは、湘南ケアカレッジの卒業生の渡辺円香さん。卒業してすぐに障害者の支援をするようになり、「今や渡辺さんがいなければ回らない(岡本さん)」ほどの活躍ぶりだそう。実は、このひとつ前には、統合失調症の方のガイドヘルプをしてきたという。「楽しいです」という彼女の笑顔が、すべてを語っていた。
しとしとと雨が降りしきる中、私たちは傘もささずに明日華さんの到着を待った。いつもより遅れてバスが到着し、渡辺さんと岡本さんが出迎える。そして、バスから降りてきて、ふたりと対面したときの明日華さんの嬉しそうな表情といったらない。言葉としては聞き取れなかったが、大きな歓声が出た。私は人と出会えた喜びをこんな風に表現できたことはない。
週に1度のペースで、明日華さんはガイドヘルパーと時間を共有する。そうすることで、親以外の大人の人々と触れ合う機会をつくっているのだという。ご両親が元気なうちは良いのだが、いつしかご両親以外の周りの人々の力を借りて生きていかなければならないときがやって来る。そしてもちろん、親にとっても、良い意味でのレスパイト(ひと息つくこと)になる。

渡辺さんが車椅子を押して、イオンへと向かう。明日華さんは渡辺さんの顔を見ていたいのか、決して前を向くことはなく、車いすに座りながらもずっと後ろを見ている。エレベーターで2階まで上がり、トイレを済ませると、フードコートのアイスクリーム店へと直行した。

明日華さんのテンションはかなり上がっていて、アイスクリームが手渡されると、今すぐにでも食べたいとの素振りだが、そこはテーブルにつくまで待ってもらう。明日華さんの食べるペースに合わせながら、渡辺さんはアイスクリームを口まで運ぶ。明日華さんは、自分の頭の後ろを軽く数回叩いて、アイスクリームが美味しいことを表現する。時おり、渡辺さんは口の周りについたチョコレートをタオルで丁寧に拭く。その繰り返しをしていると、あっと言う間にアイスクリームはなくなってしまった。実に幸せな時間であった。

◆障害者の介護は自由度が高い
障害者の介護においてのやりがいは、マンツーマンで行われ、自由度が高いことだという。高齢者の介護はどうしてもケアプランに沿って行われ、こうしたいという想いは実現しないことが多いが、障害者の介護、特に移動支援などは最たるもので、利用者本人には選択肢があり、またこちらから提案することもできる。両者の想いが実現しやすいということだ。その証拠に、明日華さんも渡辺さんも嬉しそうに笑っている。

「障害のある方の介護には未来や夢がある。だから楽しい。2018年にロシアで行われるサッカーのワールドカップを観に行くことを目標にしている利用者さんがいるんです」(岡本さん)
それは高齢者介護との大きな違いだとも言う。高齢者には未来や夢がないと言いたいのではなく、どれだけの障害を抱えていようとも、障害のある方には未来や夢があることを岡本さんは見ていて、確信しているのだと思う。
「移動支援(ガイドヘルプ)は特に好き。それだけを扱う事業所をやりたいぐらい。もっと普通に外に出て行けるようになるといい。たとえば段差があっても、周りにいるみんなが『よいしょ』って自然に手を貸せるような社会が理想ではないでしょうか、」と熱く語る岡本さんもまた、夢に溢れている。
◆介護は人間が良くないとできない
「移動支援になると特に、自分の好みの人、気の合う人と出かけたいというのが本音だと思うんです。障害者の方は語れないなりに、自分の要望ははっきりしていらっしゃる方は多い。あんまり気を利かせて提案すると逆に怒られるみたいなこともあります。私のことなんだから、私のペースで、先回りしてやらないでと。私も最初の頃はなぜ怒られているのかさえ分からず、関係を切られそうになったこともありましたが、今は少しずつ分かってきました」
必要とされる技術という点においても、障害者の介護は利用者の年齢や障害や病状、体格によって全く違ってくる。だからこそ、自分のやり方で一方的に進めるのではなく、その方に合わせたリズムややり方で介護をすることが大切なのである。
いくら技術がある経験者でも、最初のうちはテキパキと仕事が速くて良しとされても、相手のことを考えていなければ届かない。だから、千手は採用時に経験があることを重視しない。何よりもまず大切なのは人との接し方、という千手の理念に戻ってゆく。「介護は人間が良くないとできない」のだ。

◆いざ、鎌倉へ
シルバーウィークには、鎌倉へのガイドヘルプに同行させてもらった。朝起きてみると、空は晴れわたり、これ以上ないぐらいのガイドヘルプ日和。思わずガッツポーズ。利用者さんだけではなく、おそらくガイドヘルパーも、いつも当日の天気に一喜一憂しているのだろう。それは自分のためというよりも、一緒に外出する利用者さんの笑顔のため。

朝9時にグループホームに迎えに上がると、利用者の亮介さんは歯磨きをしており、もう行く準備は万端といった様子。「お部屋を見ていいよ」と言われたので、入ってみると、実にミニマルな部屋で、壁には小さいピースのパズルが飾ってあった。自分でつくったそうだ。彼は脳性麻痺で、言語によるコミュニケーションは取れるが、四肢を思い通りに動かすことができない。このパズルを完成させるのに、どれほどの時間を費やしたのか想像してみると、これはただのパズルではないことが分かる。

今回は松田知之さん(ケアカレの卒業生)と岡本さんの2人によるガイドヘルプ。乗り物が好きな亮介さんの希望により、相模線の上溝から電車に乗って茅ヶ崎、東海道線で藤沢、江ノ電で鎌倉までの小旅行である。
「カマクラまで行かなければならない」と亮介さんが言った。行きたいではなく、行かなければならない。「なんか仕事みたいな言い方だね」と松田さんが笑って返した。そう、たぶん亮介さんは、使命感のようなものに突き動かされているのだと思う。いざ、鎌倉へ。
移動支援(ガイドヘルプ)の仕事は準備が90%と言われる。事前にあらゆる状況を想定し、準備をしておく。たとえば、切符を買うとき、利用者の切符は利用者のお金で買うのだが、すぐに取り出せるようなところに財布をしまっておかなければ、切符売り場で慌てて探す羽目にはる。両手がふさがるだけに、車いすを押しながら何かをするのは難しい。ナップサックを背負うとしても、良く使うものはサイドポーチかショルダーバックなど手の届くところに入れておくほうがいい。

ちなみに、移動支援(ガイドヘルプ)において、交通費がネックになることがある。交通費は公費から出ないため、利用者によっては上限があり、遠くに行きたくても行けないこともあるという。
◆のんびりと進む
混雑した車内はさすがに狭い。車いすの方向を変えようにも、身動きが取れない状況が続いた。それでも亮介さんは長時間の移動を全く苦にしていないようで、「電車によって音が違う」と言って楽しんでいる。たしかに相模線と東海道線と江ノ電では、電車が走るときに奏でる音が違う気がする。

亮介さんはフレンドリーな性格なので、たまたま電車で隣り合わせた人に話しかける。決まって素敵な女性(笑)。私が話しかけたくても話しかけられないような女性に、ふつうに話しかける。彼女たちも笑顔で返してくれる。私には彼の率直さがうらやましい。そして、彼がひとりの男性であることに安心する。



ようやく鎌倉駅に到着し、お洒落な店々を左右に見ながら、のんびりと進む。私が普段歩くスピードの半分ぐらいの速度で、ゆっくりと。とにかく安全が第一である。御成通りをぷらぷらとしたのち、亮介さんから「何か食べたい」とのリクエストがあり、きしめんを食べられるお店に入った。


ガイドヘルパーは、利用者さんにも食べてもらいながら、自分たちも食べなければならない。今回は2人介助のため、岡本さんが食事の介助をしている間に松田さんが食べ始めたと思いきや、本当にあっと言う間に食べ終わり、「交代しましょうか」と岡本さんに聞いていた。さすがプロフェッショナルである。
「服薬の管理も大切な仕事です」と岡本さんは言う。どんな薬を服用しているかは、利用者によって異なるため、知っておかねばければならないのと、薬を飲むためには、本人の気が乗らなくても、ある程度は食事を召し上がってもらわなければならないこともある。
その後、アイスクリームを食べ、鶴岡八幡宮に向かった。鎌倉に行くということは決まっていたが、それ以外のプランはなく、亮介さんの気に任せ、ラジオをBGM代わりに聴きながらのふらり旅。昭和の曲が好きだそうで、私も知らない歌が漏れ聞こえてくる。


途中で、人力車が数台止まっているのに目が留まった。乗り物好きな亮介さんのために岡本さんたちが案内の人に相談してみたところ、「シートに座れさえすれば乗れます」とのこと。ぜひ乗りたかったところだが、2名で4000円の料金がかかるということで、今回は断念し、またの日のお楽しみに残しておくことにした。


帰りの時間も考えて、鶴岡八幡宮で記念撮影をして、再び鎌倉駅に戻る。このあとは江ノ島駅に立ち寄ってからグループホームに帰るというので、私は鎌倉駅で亮介さんたちに別れを告げた。利用者さんを未来へと導くその背中に、私はそっと手を振った。

最後にお仕事の話をすると、千手では新しい事業所の開設も見据えて、正社員を中心として介護職を募集している。訪問介護系の仕事は、パート・アルバイトを中心にしているところが多いが、千手ではフルタイムで働ける仕事があり、しっかりと働ける人材を求めている。居宅・重度訪問介護と障害者(児)の移動支援(ガイドヘルプ)の両方の働き方をバランス良くできるのも魅力のひとつである。ほぼ全員のスタッフが湘南ケアカレッジの卒業生という現場で、働いてみてはいかがだろうか。

採用情報
施設・事業所名称 | 訪問介護 「千手」(せんじゅ) |
サービス形態 | 居宅・重度訪問介護と障害者(児)の移動支援(ガイドヘルプ) |
勤務場所 |
相模原市南区、中央区、大和市、町田市 |
最寄り駅・アクセス | 事業所は東林間にあります |
募集職種 | 訪問ヘルパー |
雇用形態 | 正社員、パート・アルバイト |
仕事内容 | 障害者を対象とした生活支援、身体介護、移動支援 |
給与 | 21万円~/月 |
ボーナス | 年2回 |
勤務時間 | シフトによって異なる 正社員の場合は172時間/月 |
休日 | 8休/月 |
資格 | 介護職員初任者研修(ホームヘルパー2級)以上 |
ボランティア・見学 |
OK |
夜勤 | 週1日程度(応相談) |
交通費 | 全額支給 |
社会保険 | あり |
車通勤 | OK |
昇給 | 年1回 |
選考基準・プロセス | 面接により(履歴書持参のこと) |
求める人物像 | サービス精神のある方 |
その他 |
・働き方を選んでもらうことができます。正社員の場合は、月172時間という基準はありますが、希望によっては、それ以上働いてもらうことも可能です。給与もそれに伴って上がるため、30万円/月の収入を得るスタッフもいます。 ・移動手段(車またはバイク)は持ち込みでお願いしています。貸与などの相談もできますので、遠慮なくおっしゃってください。 |
★「千手」へのご応募・お問い合わせは、以下のメールフォームまたはお電話(042-710-8656)で村山まで。