コミュニケーションの話をします。というと、話の間口が広すぎるので、相手に何かを伝えたいときの伝え方の話をします。湘南ケアカレッジの卒業生さんたちの中にも、つい最近までは教えてもらう立場だったのに、いつの間にか自分が教える立場になってきたという方もたくさんいらっしゃると思います。また、初めて人を教えるという立場になったという人もいるかもしれません。そんな中、相手に自分の伝えたいことが上手く伝わらない(伝えられない)という悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。教えるということは、つまり伝えるということであり、(教え方の技術というものも確かにあるのですが)まずはコミュニケーションの問題なのです。そして、今回お話しすることは、介護の現場だけではなく、日常生活のあらゆる場面でも使っていただける知恵でもあると思います。
なんて、大それた前置きをしましたが、それほどのことではありません。まずは相手の良いところや出来ていることを2つ伝えたあとに、改善すべきところや直してもらいたいことをひとつ伝えるということです。この伝え方をツーストライクワンボールと言います。野球をやっている方なら分かると思いますが、最初はストライクから入ることで、その後の配球が楽になるということです。
その場で伝えることも、分かりやすくはっきりと伝えることも大切ですが、それよりも伝え方の順番が大切です。良い情報が先で、悪い情報があと。この順番を間違えると、相手は心を閉ざしてしまいますし、そもそも悪い情報しか伝えなければ、相手は聞く耳さえ持ってくれないはずです。ワンボールツーストライクではなく、ツーストライクワンボール。やってみていただけると分かると思いますが、結構難しいです。
なぜ難しいかというと、人間の自然な感情の流れと反するからです。私たちはつい相手の悪い部分ばかりに目が行きますし、そこが気になっていたたまれなくなり(もしくは反射的に)、自分の感情のままに悪い情報から相手にぶつけてしまいます。言ってみたものの、相手の反応を見たり、あとから時間が経って落ち着いて考えてみたりして、言い過ぎたかなとか言い方が悪かったかなと反省し、あとからフォローしたりするかもしれません。それはある意味、自然な感情の流れです。
でも、それでは結局相手には上手く伝わりません。相手も感情的になってしまい、こちらの伝えたいことを聞こうとしてくれないばかりか、反発しようとさえするかもしれません。それではどうするかというと、まずはストライクを先に取りに行くのです。それはお世辞を言うとか、おべっかを使うということではなく、相手の良いところやできているところ(必ずあるはずです)を認めることからコミュニケーションや人間関係を始める、いや、そこからしか始まらないということです。
ツーストライクワンボールのもうひとつの難しさは、相手を褒めたり認めたりするためには、普段から相手の良いところを見ていないといけないからです。他人が頑張っているところや良い点は見ていないのに、悪いところが目についたら感情的に言うなんておかしいですよね。ツーストライクワンボールは、実は伝える側の視点を問うものです。もちろん、どこから見ても褒める・認めるべき点などひとつもないという人も世の中にはいるかもしれませんが、ほとんどの人はそうではなく、自分ができるだけのことをしようと頑張っているのではないでしょうか。それを見て、知って、認めた上で、こうすればもっと良くなるよと伝えてあげることが教えることの本質なのです。今年は私自身もツーストライクワンボールを心がけて、生きていきたいと思います。