「3年間離職ゼロの記事をYAHOOニュースで読みましたよ」と私が切り出すと、人事担当の加藤洋子さんは「新卒に限った話ですが、実はここ10年間でも、1年間以内の離職者がほぼゼロなのです。この10年間でひとりだけ辞めてしまった方がいたので…」と答える。新入社員の3割が3年以内に辞めてしまうと言われている世の中で、しかも離職率が高いとされている介護業界において、10年間で1年以内の離職者ほぼゼロという数字は何を物語るのだろうか。そのヒント、あわよくば答えを知りたいと思い、南町田のマークスプリングス内にある「輝の杜」(かがやきのもり)に私はやって来た。
◆イタリアを思わせるような街並み
「輝の杜」は、社会福祉法人合掌苑が運営する有料老人ホームである。「生涯住み続けられる街」をコンセプトとしたマークスプリングスには、人々が暮す住宅から病院や公園、コンビニエンスストア、さらに温泉や託児所まである。その中の介護施設として「輝の杜」があり、ヘルパーステーションやデイサービスなども併設している。私は行ったことがないが、まるでイタリアを思わせるような街並み。異国を訪れたかのような気持ちになる。
◆お客さまからの『ありがとう』
合掌苑が運営する複数の施設の中でも、私が「輝の杜」を訪ねたのは、卒業生の市原和真さんが働いているからだ。湘南ケアカレッジが開校して1年目の夏に修了してからになるので、はや1年半にわたって勤務していることになる。久しぶりに再会してみると、ずいぶんと大人っぽくなっていた。周りの新人スタッフから、「市原さんのようになりたい」と憧れられているという。彼は謙遜して「まだまだですよ」と言うが、自分自身では気づかないうちに磨かれて、玉になりつつあるのだろう。
「どんなときにやりがいを感じますか?」という私の凡庸な質問にも、「月並みかもしれませんが、人の役に立てていると感じるときですかね。人と接する仕事なので、もちろん辛い思いをすることもありますが、それ以上に、お客さまから『ありがとう』と言ってもらえたときは嬉しいです」と彼は答えてくれた。
彼の口から自然と出た「お客さま」という言葉に、「輝の杜」の姿勢が凝縮されていると思う。加藤さんもお客さまと言うし、他のスタッフもそう呼ぶ。自分の仕事が誰によって成立し、どういう関係性にあるべきかを考えるとき、その対象を総称で何と呼ぶかはとても重要な問題となる。たとえば、湘南ケアカレッジでは研修を受けてくれる方のことを「生徒さん」、教えてくれる人を「先生(方)」と呼ぶ。私がかつて勤めていた大手の介護資格スクールでは、「受講生」と「講師」であった。そんな小さな違いはどうでもいいと思う方もいるかもしれないが、相手をどう呼ぶかでその関係性は決まるし、関係性によって言葉が変わってくることもある。どちらが先か分からないけれども、とにかく総称としての呼び方と関係性は密接しているということだ。
◆認知症介護に答えはない
「お客さまの昔の話を聞くのが好きですね。戦争の頃の話とか、自分の生きている時代と全然違うじゃないですか」とも市原さんは語った。お客さまの昔の写真などを見ると、その方の素晴らしき時代に想いを馳せるという。その気持ちは私もよく分かる。私も小さい頃、曾祖母が話してくれる昔話を聞くのが好きだった。同じ話を何度も聞いて、次にどんなセリフが発せられるか分かるようになっても、女学校時代に竹やりで爆弾を突く練習をさせられた場面が登場すると、毎度、隔世の感を覚え、興奮したものだ。
市原さんが「輝の杜」で仕事をするようになり、最初に驚いたのは認知症の方の存在であった。「うちの祖父は87歳ですが、まだ車を運転するほど元気で、自分の周りに認知症の方がいなかったのです。だから、最初は認知症の方を目の前にして、どう接するべきか悩みました」と市原さん。
そんなとき思い出すのが、小野寺先生が介護職員初任者研修の授業で言っていた「認知症の方の対応に答えはない」という言葉だったという。実際に認知症の方と接してみて、「答えはない」という意味がよく分かるようになってきたという。同じ方でもその日によって気持ちに変化があり、状況が異なり、対応も違ってくるので、その都度考えていかなければならない。
◆夜勤がない!?
勤務体系について質問をすると、「輝の杜」には早番と遅番があって、夜勤はないという。ここでクエスチョンマークが浮かんだ方もいると思うので説明しておくと、夜勤は夜勤専門のスタッフがいるということだ。この勤務体系は、運営元である合掌苑系列の施設は全てそうであるらしい。私も最初に聞いたときは驚いたが、夜勤と日勤を分けるのには理由があって、やはり何といっても職員が働きやすいからである。生活のリズムが安定し、体調を崩すこともなくなる。日勤と夜勤との間の情報の共有が難しくなるなどのデメリットも考えられるが、それは工夫次第で解決可能な問題であり、職員が長く働き続けられることが全てに優先されるということだ。
さらに看取りについて話は及んだ。輝の杜では看取りまで行うことがほとんどであり、ご家族がいらっしゃらないお客さまの場合は、スタッフが最期まで立ち会うという。それまで人間の死に直面することも、まして看取った経験などなかった市原さんだが、意外にも冷静に客観的に考えることができたという。
「私がまだ2年目であり、これからもっと長いお付き合いになったお客さまが亡くなったときにどう思うかは、今は分かりません。先輩が長く一緒に過ごしたお客さまを看取って、泣いている姿を見たとき、そう思いました」
煌びやかなダイニングルームで話をしていると、死について忘れてしまいそうになるが、終の棲家である介護施設においては日常的なことのひとつである。それは避けるべきことでも、隠すべきことでもない。光があるからこそ影が生まれるように、生があれば死が訪れる。生きているものが滅びてしまうことが苦なのではなく、それが滅びずに常住していると観るから苦が生じる。そうではなく、死は、私たちに生の輝きを教えてくれる。「その方の人生の最後の数年を一緒にいられるという貴重な体験をさせてもらっています」という市原さんからは輝きが満ち溢れている。
彼に施設内を案内してもらうことにした。私にはどうしても忘れられない風景があった。以前に「輝の杜」を訪ねたときに3階の中庭から見たマークスプリングスの街並みがもう1度見てみたかったのだ。各フロアーをひと通り見せてもらったのち、念願の中庭へ。あいにくの曇り空にもかかわらず、相変わらずの美しい景色であった。夏場はここをビアガーデンにしたりするという。お酒が全く飲めない私でも、美味しいお酒が飲めそうだ。
◆インカムなしでの仕事は考えられない
案内してもらっている途中で、彼が耳にしているインカムが気になって、見せてもらった。片一方を耳にはめて、もう一方をマイクのようにして話すという。インカムで話される情報は全員に聞こえるため、情報共有はもちろんのこと、分からないことがあればすぐに教えてもらえる。たとえば、あるお客さまの居室に行き、車いすをベッドサイドに付けるべきか、それとも洗面台の横に置いておくべきか迷ったとき、その場でインカムを使って先輩やリーダーに尋ねると、すぐに答えが返ってくる。
「インカムなしでの仕事は考えられません」
まるで携帯がないと生きていけないといった若者のようなニュアンスで、彼はインカムの重要性を教えてくれた。加藤さんいわく、合掌苑系列以外にはインカムを導入している介護施設はまだ少ない。先ほどの夜勤がないシフトもそうだが、良いと思ったことは前例がなくても取り入れるという風土があるのだろう。それをビジネスの世界ではイノベーションといい、つまり合掌苑は古き良き介護施設ではなく、新しい介護企業でありイノベーターであるのだ。
◆お互いの気持ちを尊重する
「離職ほぼゼロにとって大切なことは、やはり採用なのですかね?」
帰りに南町田まで送ってもらう車の中で、加藤さんに採用について尋ねてみた。スタッフが辞めることなく、長く働き続けるための秘訣は入口、つまり採用にあるのではないかという私なりの仮説があったからだ。そして、インタビューのような形で正面切って聞くと返ってこない本音が、こういう世間話のような会話の中でポロっと出てくることを私は経験的に知っている。
「採用者は焦ってはいけないと常に思っています。とても良い方で、喉から手が出るほどうちで働いてもらいたい、今すぐこの場で採用したいと思うこともありますが、そこをグッと我慢して待つのです」
「皆さん、最初は介護の仕事がやりたいとおっしゃって来てくれるのですが、それが本心ではないことも、実は違う仕事にも興味があることもあります。だから、わざと『本当は違うことがしたいのではないですか?』と言ってみることもあります。そうすると、『ほんとうは営業をしたいのです』と本音を打ち明けてくれることも。そうしたらまた気持ちを新たに整理して、お互いに話し合うことができるのです」
まるで恋愛の指南を受けているようだが、それは駆け引きではなく、お互いの気持ちを尊重することだと思う。「輝の杜」を含め、合掌苑系列の施設では、採用に至るまでに3度の面接を行う。まだやるのかと思われるぐらいの話し合いを経て、お互いをきちんと理解した上で採用する。他の施設だと1回の面接で終わる(その場で採用されることも珍しくない)だけに、なぜそこまでするのかと不思議がられることもあるという。
「もちろん、人が何より大事であるという理事長の方針があってこそです。採用担当を急かすと、うちに合わない人を連れてきてしまうと常々おっしゃってくださるので、現場も理解してくれています。組織として、人財が大切という共通認識があるのです」と加藤さんは言う。
諸行無常という仏教の言葉がある。この世にある全てのものは、本質も姿かたちも、変化してやむことはなく、一瞬たりとも同じではない、という意味。人の気持ちも常に移り変わるものであり、今日はここで働きたいと本気で思っていても、明日になってみたら変わっているかもしれない。それは採用する側とて同じことで、今日はうちに合っている人だと思っても、次に会ってみると少し印象が変わっているかもしれない。ある程度の時間を待って、それでも変わらずに互いを想うことができるならば、それは縁というものになる。そして、縁あった人を大事にする。離職ゼロの答えを解き明かしに行った私は、そんな人と人との関わりにおいて大切なことを教えてもらった。
採用情報
施設・事業所名称 | アシステッドナーシング輝の杜 |
サービス形態 | 住宅型有料老人ホーム、デイサービス、訪問介護、居宅介護支援 |
勤務場所 | 〒246-0008 神奈川県横浜市瀬谷区五貫目町10-38 |
最寄り駅・アクセス |
最寄駅 東急田園都市線 南町田駅 徒歩17分
国道246号線 目黒交差点すぐそば 車通勤可 |
募集職種 | 介護職 |
雇用形態 |
正社員、準職員、非常勤 |
仕事内容 |
【お客様の生活サポート】 お客様にご安心して生活いただけるようサポートするとともに、毎日を楽しく過ごしていただけるよう、様々なアクティビティの企画・運営をしていきます。 |
給与 |
【正社員】入居施設 224,000円 入居施設以外 217,000円(採用時22歳)、年齢・経験により考慮します。 【非常勤】時給910円~ 【準職員】191,400円~ |
ボーナス |
年2回 7月・12月 業績・評価による |
勤務時間 |
入居施設 7:00-16:00、12:00-21:00 シフト制 デイサービス 8:00-17:00、8:30-17:30、9:00-18:00 シフト制 訪問介護 8:30-17:30、10:00-19:00 シフト制 |
休日 |
4週8休、 リフレッシュ休暇年間8日間他。 |
資格 |
正社員及び準職員 介護職員初任者研修修了以上 非常勤 資格なし可 |
見学 | OK |
夜勤 | なし 宿直あり |
交通費 | 上限30,000円まで支給 |
社会保険 | 完備 |
車通勤 | 可 |
昇給 | 年1回 当苑規定による |
選考プロセス |
正社員(適性検査及び三次面接まであり) 非常勤(面接のみ) |
求める人物像 |
人の役に立ちたい、人に喜んでもらいたいと思う人 毎日の生活の中で「お客様の心を支えたい」という気持ちが根底にあること |
その他 |
★輝の杜、社会福祉法人合掌苑で働いてみたい方、またお問い合わせ等は、以下のメールフォームまたはお電話(042-710-8656)で村山まで。担当の方までスムーズにおつなぎします。