見えない仕事を見る

湘南ケアカレッジでは、教室の掃除を生徒さんたちに手伝っていただきます。初日に掃除当番を決めて(1日につき2人か3人)、授業が終わったあと(5分ぐらいですが)、皆さんが使う机を拭いてもらう係、クイックルワイパーを使って床の埃を取ってもらう係、掃除機をかけてもらう係に分かれて、一緒に掃除をしてから帰っていただきます。労働力を補おうと考えているわけでは決してなく(笑)、掃除を一緒に手伝ってもらうことで生まれるものがたくさんあることを知っている(期待している)からです。

 

掃除を一緒にすることのメリットを挙げていけばキリがありません。ひとつは、掃除当番になった方と個別に話すきっかけが生まれるということです。特に研修が始まった頃はそうですが、授業が終わるとほとんどの生徒さんたちは一斉に教室をあとにします。「おつかれさまでした」、「また明日(来週)お待ちしています」とあいさつをして、全員が笑顔で帰ってくれていることを確認しますが、何か質問などがない限り、個別に話してから帰ることはあまりありません。ところが、掃除当番で残ってくれている生徒さんたちとは、わずかであったとしてもお話ができる機会が生まれます。たぶん生徒さんも、掃除当番で残ったときの方が個別に話しかけやすいのではないかと思います。

 

それからもうひとつは、掃除当番になった生徒さんたち同士が、一緒に帰るきっかけとなるということです。それぞれに住んでいる場所は違うでしょうから、町田の駅までになるかもしれませんが、そこまで話をしながら一緒に帰ってくれると嬉しいなと思います。たまたま掃除当番で一緒になり、個別に話して帰ったことが、クラスメイトと仲良くなるきっかけとなることもあるのではないでしょうか。授業が終わってから一斉に帰っていたときにはなかった、つながりが生まれたりするかもしれません。

 

そして何よりも、掃除をしている姿を見ることで、その生徒さんの人となりが分かることがあります。マイペットを雑巾にかけてから机を拭く方や直接机に吹きかけてから雑巾で拭く方など、やり方もそれぞれ。クイックルワイパーで教室の隅々まで綺麗にしてくれる方、表面が汚くなったら裏面にひっくり返して使っている方、何度も丁寧に絨毯に掃除機をかけてくださる方などなど、その方の普段の生活や仕事への取り組みなどが、そういった部分から見えてくることがあります。だから何ということではありませんが、生徒さんの意外な点や良い点、はたまた性格までが立体的に浮かび上がってくるから不思議です。

 

 

私がこれまでいろいろな職場で様々な人々と仕事をしてきた中で、確実に言えることは、掃除をきちんとする人=仕事ができる人でした。なぜかというと、掃除というのは、誰かが見ているわけではなく、評価の対象にもならない、しかし誰かがやらなければならないことだからです。そういう見えない仕事を率先してすることができる、徹底してやりきることができる人は、(表面を取り繕うのではなく)本当の意味で仕事ができるのです。その人こそがチームに最も貢献している、職場にいなくてはならない存在なのです。だから私は新しいスタッフが入ってくるとまずその掃除ぶりを見ますし、たとえ上司でも掃除をしない(できない)人の言うことは大体間違っていますので聞き流すことにしていました(笑)。私たちが生きている世の中は誰かの見えない仕事によって支えられていて、そういう見えない部分を見ようとすることも大切であり、そのひとつが掃除を見るということなのではないかと私は思うのです。