地域で暮す

「もう38のおっちゃんやで。好きにさせてや」

 

もし結婚をしていなかったら、地域ではなく、施設で暮らすことを選んでいた可能性はありましたか、という私の質問に対して、講師の大澤健児さんはそう答えてくれました。もちろん、そのあとに論理的に説明もしてくれたのですが、私にとっては上のひと言だけで彼の言いたいことが分かりました。そうなんですよね。もう子どもじゃないんだから、自分がどう生活していくかぐらい、自分の意思で選びたい。そこには大きな責任は伴うことは分かるし、大小さまざまな困難が待ち受けているかもしれないけど、それでも自由を手に入れたい。地域で暮すとは、そんな当たり前のことなんですね。

 

先日、卒業生さんに誘われて大澤健児さんの講演会「指のぬくもりで愛を紡ぐ」に参加してきました。大澤は脳性麻痺のため介護を受けながら施設で生活をしていました。施設では規律正しい生活を送ることはできるけど、自分の意思で何かをするという自由はほとんどありません。たとえば、今日どこかに行きたいと思っても、書類を提出して、それが認められるのは1週間後なんてこともあるそうです。そこで同じく脳性麻痺の病気を抱える奥さまと出会い(奥さまとの出会いのエピソードが面白かった)、付き合って、結婚することを機に、「すべてが想定外だった」という奥さまとの在宅での生活が始まりました。

 

なぜ結婚がきっかけになったかというと、もちろん施設が共同生活の場であり個人的なこと(男女の関係など)は持ち込んではいけないという不文律があることに加え、結婚を機に地域で暮らそうとすると「がんばってね」と応援されて送り出してもらえるからだそうです。もしひとり暮らしを始めるとすれば、「ほんとうにひとりで暮らせるの?」と引き留められるのとは対照的というのが面白いですね。実際に地域で暮してみて、近所付き合いなど大変なこともあったけれど、施設で暮らしていればと後悔したことなどひとつもないと断言していました。全体的に大澤さんのお人柄が伝わってくる、ユーモアに溢れ、心地よい講演会でした。大澤さんにはこれからも自らの言葉で語る活動をしていってもらいたいです。

 

この講演会に参加させてもらい、地域で暮したいという生の声を聞くことができ、また卒業生さんたちにも再会し、さらに主催されているNPO法人きせきの理事長である内海光雄さんとは今から15年前にお会いしていたことが発覚して驚きました。かつて私が大手の介護スクールで働いていたとき、当事者としてお話をしていただいたことがあり(その当時、彼は厚木市の議員だったと記憶しています)、とてもパワフルではっきりとものを言う方でしたので記憶に鮮明に残っています。あれから長い歳月が流れ、相変わらず元気な姿を見れて嬉しく、こうして活動を継続されていることに尊敬の念を覚えました。内海さんが講演会の冒頭で語った「障害は乗り越えるものではなく、共にあるもの」という言葉を噛みしめたいと思います。