なんともインパクトのあるタイトルですが、とても真面目な介護のエッセイ集です。以前に「へろへろ」を紹介したところ、さっそく望月先生から「あの本に登場する村瀬さんという方、私とても尊敬しているんです」という反応が返ってきました。村瀬さんは知る人ぞ知るこの業界の有名人のようで、望月先生は講演会にも参加したことがあるそうです。翌日、「村瀬さんの書いた本もとても良いですよ」とサイン入りの本を渡されました。読み始めてみると、なかなか味があって面白い。こういった視点で、お年寄りや介護の現場を切り取って見せる人が、今の介護の世界には必要なのです。文は人なり、文章を見れば書き手の人となりが分かると言われるように、まさに村瀬さんの人となりが分かる素晴らしいエッセイばかりです。
個人的に好きなのは(挙げていくとキリがないのですが)、プロローグの「私小説・第2よりあい」と「ただ、それだけ」の2つ。「私小説・第2よりあい」はひとりのおばあちゃん(千早さん)を巡る、男性介護職員たちと利用者である太郎さんの愛の物語です。千早さんが最初に想いを寄せたのは村瀬さん。「ワタシ…アナタ二…好意デ…満腹ナノ」思い浮かんだ限りの言葉を寄せ集め、千早さんは村瀬さんに気持ちを伝えます。その好意に応えようと、村瀬さんも良い男を演じていると、今度は新入職員の久保くんに千早さんの気持ちは傾きます。いつの間にか村瀬さんも千早さんを取られまいと必死になる。
そんな2人の男のバトルの前に現れたのが、昔は大企業の副社長を務めていたという利用者の太郎さん。千早さんは太郎さんにあっさりと熱を上げ、村瀬さんと久保さんの恋は終わるのです。3年ほど前から、千早さんは寝たきりになり、こちらからの声掛けにも応えなくなってしまいました。それでも、村瀬さんと久保さんは競って千早さんの入浴介助を行うのだそうです。私があらすじを書いたところで、この文章の本質に流れている愛の深さは伝わりませんが、とにかく心が洗われるような気がする読後感です。
その他、「お金で買えないものはありますか?」というスタッフの問いに「涙」と答えタメノさんの話、老人介護とは、日々の暮らしの中で、お互いに関わり合うことで、ひとつひとつ折り合いをつけていくことではないかと提案する「宅老所おりあい」、もの盗られ妄想のおばあちゃんから逃げ出した過去を後悔して、ぼくたちに足りなかったのは方法論でも技術論でもなく、ばあさんの妄想に付き合おうと思う覚悟だけだったのかもしれないと振り返る「探しものはなんですか?」、50代でアルツハイマー病を発症した紀子さんが下関に行くのに理屈など要らないと語る「ただ、それだけ」などなど。何度読み返しても、私の心は村瀬さんの文章によって鷲掴みにされてしまうのです。
村瀬孝生さんと谷川俊太郎さんの講演会「生と死をつなぐケア」が4月17日(日)に行われますので行ってきます!