世界から訪問介護が消えたなら

なぜヘルパーさんが集まらないのか?という悩みを抱えている訪問介護事業所は非常に多いです。というよりも、ヘルパーさんが足りていると感じている事業所など、日本全国どこを探し回っても見つからないのではないでしょうか。それぐらい全国的にヘルパー不足は深刻なのです。理由としては、景気の上昇や人口動態の変化による労働人口の減少、介護保険制度や介護報酬の不安定さなどが挙げられ、そのどれもが複雑に絡み合っているのが現状です。もしかしたら介護の仕事が魅力あるものに見えなくなっているのだろうか、と介護関係者が自責の念にかられてしまうのも無理はありません。

 

学校(教育機関)として要因を挙げさせてもらうとすれば、2013年にホームヘルパー2級講座から介護職員初任者研修に名称が変わり、また研修の内容が大きく変わったことも、理由のひとつに数えられるのではないでしょうか。せっかく世の中に定着していたホームヘルパーという呼び方を捨て、わざわざ介護職員に変えたのはなぜでしょうか。それまでのホームヘルパーとは在宅で介護をするヘルパーさんを指していましたが、介護職員ではいかにも施設で働くスタッフというイメージを想起させますよね。

 

さらに介護職員初任者研修の中に、実習がなくなったことも大きいです。ホームヘルパー2級講座においては、スクーリングののちに特別養護老人ホーム等に2日間、デイサービス等に1日間、訪問介護事業所に1日間の計4日間の実習が義務づけられていました。訪問介護事業所での1日は、ヘルパーさんに同行して2件以上の在宅サービスを経験することができました。そうすることで、施設で働くだけではない、自宅に訪問して介護をするという働き方もあることを平等に知れたのです。

 

 

以上の2つの理由によって、これから新しく介護の仕事をしようとする人たちにとって、働き方の選択肢の中から、訪問介護が消えたのです。たかが研修の名称や実習の有無と思われるかもしれませんが、国が目指す方向としての在宅介護とは正反対に、印象操作が行われたことによって、介護の世界で働く人々はますます施設職員を目指すようになったのです。もし世界から訪問介護が消えたなら、この世界はどう変わるのでしょうか。なーんて、今週から公開される映画「世界から猫が消えたなら」のタイトルにかけてみました。卒業生が働いている訪問介護事業所に取材に行ってきましたので、近いうちに紹介させていただきますね。ぜひとも訪問介護の世界について、もっと皆さんに知ってもらいたいと思います。