回り道してもいい

卒業生さんから就職の相談をされることがあります。最近は30歳になったばかりという男性の相談を受けました。これまではお茶屋さんでアルバイトをずっとしてきたのですが、「30になったので、そろそろ正社員として仕事がしたい」と介護職員初任者研修を受講してくれたそうです。とても明るくて、真っ直ぐな性格の彼ですが、これまでの(アルバイトの)職歴を少し悔いているようにも見えたので、「これから頑張って3年後に介護福祉士を取っても全然遅くないですよ」と助言したところ、「はい、5年後にはケアマネを目指したいと思います」と言ってくれました。決して慰めやフォローで言っているわけではなく、回り道をした経験は何よりも重要だと心から思っているのです。

私自身、大きな回り道をしてきました。たぶん同級生たちや両親から見ると、壮大な回り道をしていると思われていたはずです。自分では回り道をしているつもりはないのですが、いつの間にか、ずいぶんと迂回してしまっていました。せっかく両親が敷いてくれたレールに乗り損ね、自分のやりたいことを追究した挙句に、如才のなさも手伝って、私が社会に出たのは同級生よりも2年遅れでした。最初に入った会社を1年で辞めて、2年間のフリーター&引きこもり生活をしたこともあります。さらに子どもが生まれてからも、正社員の待遇を捨てて、仕事をしていなかった時期が1年間もあります。思い返せば、小学生のころの運動会の駆けっこでは人と競走する意味が分からず、スタートの合図が鳴っても歩いていたような子どもでしたから、そのあたりの世間ズレは避けられなかったのかもしれません。

 

でも、今から思うと、私にとって最も役に立ち、人生を充実して輝かせてくれているのは、学校を卒業できずに留年した2年間やフリーター&引きこもり生活をした2年間、そして正社員をやめて次に仕事を始めるまでの1年間でした。この5年間の回り道は、人の道から外れてしまったように感じ、世間の冷たい目にさらされながら、一刻も早くきちんとした仕事をしなければならないというプレッシャーに押しつぶされそうになりながら生きていました。そんな中で、本を読んだり、体験したり、考えたりしながら学んだことが、今の私の礎になっています。

 

こんなことを言うと、心労をかけた両親や家族には怒られるかもしれませんが、この回り道があったからこそ、好きな人たちと一緒に好きな仕事ができる今があるのです。何もかもが上手く運んでいて、誰からもとがめられず、羨ましがられるような道を歩んでこられたとしたら、おそらく私はどこかで自分との折り合いがつけられずに倒れてしまっていたでしょう。あの時、全てがアンラッキーに見えたことが、今になってラッキーだと思えるのですから、人生とは不思議なものですね。

 

回り道が最高だなんて言うつもりはありません。回り道をしたくてもできない人もいると思いますし、私はたまたま両親や家族の支えや理解があったから回り道ができただけです。回り道をしなくても良い人はしなくても良いかもしれませんし、回り道をしている人には回り道をしても良いのだと知ってもらいたい。そして回り道こそが、未来に大きな価値を生むことを経験者として伝えておきたいのです。別にこれは若いときに限ったことではなく、いくつになっても同じですよね。もちろん私も、この先もどんどん回り道をして、人生の面積をもっと広くしていきたいと思います。