出る杭になる

こういうことがしたいと提案すると、「危ないからダメ」、「何かあったら、あなた責任取れるの?」、「今までうまく行ったことがない」などと却下されてしまう、という嘆きの声を介護の現場で働いている卒業生から聞くことがあります。実は介護の現場だけではなく、どの仕事や職場でも良く見られる光景ですよね。何か新しいことをしようとすると、即座にもっともらしい理由(第1位は「危険だから」)をつけて潰されてしまう。こんなことを何度か繰り返しているうちに、利用者のために現場を変えようと意気込んでいた新人も、あきらめムードになり、ついには何も考えなくなり、いつの間にか現状維持を期待するスタッフになってしまう。危険やリスクはないけど何もない、そんな現場の一丁できあがりです。

 

その現場のことを深く知らない新人の意見は、全くもって的外れなこともありますが、的を射ていることもあります。経験や知識に裏打ちされていない分、アウトプットの質にムラがあるということです。それでも、間違っていることや勘違いしていることに対しては、その根拠を示しながら具体的にできないことを説明し、正しい意見や新しい考え方に対しては、それを受け入れてみることが必要です。受け入れてみるとは、もう1度、それは本当に正しいのか、できることなのかを考えてみるということです。

 

ベテラン職員やリーダーは、無意識のうちに面倒くさいことを避けようとする心理が働きますので、まずは自らの常識や思い込みを捨てて、ひと呼吸おいて自分の頭で考えてみるべきです。それは本当に利用者さんのためになるのか、実現可能なのか、リスクよりもリターンの方が大きいのか、問題が起こる確率はどれぐらいか。そうやって、自分だけの狭い視野ではなく、鳥のような視点で全体を見るように考えることができることこそが、頭の良さであり、仕事ができるということなのだと思います。ベテラン職員や(特に)リーダーの質が問われているということですね。

 

 

その仕事や現場のリーダーは、出る杭を叩く人であってはならないのだと思います。出る杭を叩くのではなく、うまく剪定(せんてい)することが求められています。木の幹の部分が正しい方向に向かってさえいれば、もし枝や葉っぱがおかしな方向に伸びたとしても、チョキチョキと刈って揃えるぐらいでいいのです。そんなリーダーがいる職場は、活気に溢れていますし、スタッフの成長も速いです。新人だけではなく、私たちは誰もが出る杭になるべきです。それぞれが出る杭になって、お互いに剪定しながら学び合う。出る杭を褒める・認める文化が、日本中の介護の現場には必要なのだと思います。