「介護の星」熱闘編

三好春樹さん監修による、マンガで分かる介護の基本テキストです。漫画だからといってあなどるなかれ、介護の現場における問題提起がなされており、かつ自立・介助の方法が図解で詳しく解説されています。食事や排泄、入浴といった三大介護から、寝かせきりやリハビリテーション、医療と介護の違い、そして誰がための介護なのかというところまで、理想を語るだけではなく、それを実践する方法まで具体的に示してくれています。湘南ケアカレッジの先生方が授業でお話ししている内容も随所に見られて、三好春樹さんの考え方の素晴らしさとその影響力の大きさが伝わってきます。ケアカレの卒業生は復習として、これから介護職員初任者研修を受ける方は予習として読んでみても面白いと思います。

 

三好春樹さんの魅力は、簡単に言って、まず考え方が正しくて、それを実現するだけの実践的で正確な技術や知識があって、さらにそのことを人に伝えられるだけの論理的思考を持ち、文章が上手であるということです。私にとっては、最後の文章が上手であるということが三好さんの考えの伝わりやすさの根本になります。この本は監修だけあって、ほとんどの部分は三好さんではない編集者がつくったり書いたりしたものを、あとから三好さんが読んでチェックしたものですが、まえがきとあとがきは三好さんが自分で書いた文章であることが分かります。なぜかというと、そこには三好さんの考えが分かりやすく表現されているからであり、それこそが文章が上手いということです。

 

 

ということで、ここから先は、三好さんの書いた文章を引用させてもらい、三好さんに語ってもらいましょう。

 

私は逆に、食事、排泄、入浴の介護をちゃんとやることこそ、「尊厳を守る」ことだと考えています。だって、どんな食事をするかで生きていこうと思えることがあるんです。ひどい排泄ケアで自己喪失に至ることもあります。入浴ケアで、自分を確認することもあるんです。

(「三大介護こそ尊厳を守るケア」より)

 

介護の本質は、“介護”という言葉の中にあります。介護の介は、媒介の介だと思っています。少し難しくなりますが、ヘーゲルの哲学書を日本で翻訳するとき、Vermittelung(あるものを他のものを通じて存在させること)という言葉の意味に、「媒介」をあてたのです。この「あるものを他のものを通じて存在させること」こそ、介護をうまく言い表していると思いませんか。「あるもの」が要介護の老人で、「他のもの」が介護者です。

(「お年寄りをそれぞれの生活の主人公に」より)

 

オムツ交換は、老人にとって屈辱的なものですが、介護者にとってもつらくて嫌な仕事です。でも、便器の中に排出すれば、老人も気持ちがいいだけでなく、介護者にとっても喜びになります。

 

人は生きているから食べ、食べるから排出します。出すことに嫌な顔をされることは、生きていることを嫌がられていると思っても不思議ではないでしょう。だけど、便器の中に出せれば、お互いに喜びあえるのです。

 

 

いい介護関係は、少人数のなじみの関係によってできるのではありません。少人数であれ大規模であれ、どんな排泄ケアをやるかで決まるのです。

(「あたり前の生活を取り戻す」より)

 

この本を買って読んでくれている人の多くは、熱心な介護関係者でしょう。熱心なあまり、職場では浮いているかもしれません。

 

 

でも、浮いているのではありません。周りが沈んでいるんだと思って、浮き続けてほしいと思います。“権威主義”、“管理主義”、“科学主義”と闘って、介護のほんとうの3K(「工夫」、「健康」、「感動」)を実現するために。

(「浮き続けるということ」より)