ひとつの仕事に2つの意味を込める

どんな仕事をするとしても、作業や業務にしないことは大切です。ここで言う作業や業務とは、するべき仕事だけをするということ。看護師の藤田先生が介護職員初任者研修の授業の最後に、「介護業務や看護業務って言われるけど、介護と業務、看護と業務の間にある違いって、なんだか分かる?(藤田先生風)」と問います。「それはね、ただ言われた仕事をする、たとえば利用者さんの身体を拭いてきてと言われたら、さっと素早く拭いてくるだけなのは業務。いくらスピードが速くてもそれは仕事ができるとは言わない。身体を拭きながら、利用者さんに適切な声掛けをして、皮膚の状態などを観察したりして初めて介護が加わる。相手のことを考えて仕事ができて初めて介護業務になるんだよ」そんなメッセージを贈ってくれます。そう、作業や業務にしないためには、ひとつの仕事に2つ(もしくは3つ)の意味を込めるべきなのです。

初めて会社に就職して働き始めたとき、ある上司に言われたことを今でも覚えています。「コピーを頼まれたら、仕事ができる人はコピーを取るだけではなく、コピー機の画面が汚れていないか確認して、もし汚れていたらハンカチ等で拭いて綺麗にしてからコピーをするんだよ」当時はその上司が何を言いたいのか分からず、仕事ってそんなに面倒くさいんだと思いましたが、あれもひとつの仕事に2つ以上の意味を込めろということを伝えたかったと今は分かります。私はこれまでいくつかの企業で仕事をしてきましたが、仕事ができる人(長期的に見て他者を幸せにできる人)は、ほぼ例外なく、ひとつの仕事に2つ以上の意味を込めていました。つまり、するべき仕事をしながらも、相手のことを考えて、もうひとつの意味を込めるということです。

 

これは学校にも当てはまります。たとえば、先生が出欠を取る際に、ただ名前を呼んで出席簿にチェックをするのは作業です。生徒さんの名前を呼び、それに応えてくれた生徒さんとアイコンタクトをして、笑顔であいさつをして、そのときの生徒さんの表情を観察して初めて仕事になります。出欠を取るという作業の中にも、「生徒さんと心を通わせて気持ちを温める」、「自分という人間のパーソナリティーを知ってもらう」「生徒さんの心境を察する」という3つの意味を込めることができるのです。またたとえば、通信添削課題を返却する際にも、ただ渡すだけではなく、「お疲れさまでした」とひと声掛けるだけでも、「生徒さんの頑張りを認める」という意味を加えることができますし、「次も期待しています」と言うと「生徒さんのモチベーションを高める」という意味を込めることもできるのです。

 

 

ひとつの仕事に2つ以上の意味を込めることの大切さは、それが相手のことを考えて仕事ができるようになることだけではありません。実は、ひとつの仕事に2つ以上の意味を込めて仕事をすることで、自分の仕事の効果や成果が2倍にも3倍にもなるのです。たしかにひとつの仕事に1つの意味しか込めないのであれば、スピードは速くなります。2つ以上の意味を込めようとすると、どうしても少しだけ余分な時間が掛かってしまうかもしれません。それでも効果や成果が2倍、3倍になるのであれば、仕事の目的は何かを考えたとき、ひとつの仕事に2つ以上の意味を込められる人とそうでない人との間には、長い目でみると、歴然とした差が生まれてしまうのです。「どうすればこの仕事に2つ以上の意味を込めることができるのか」と常に考えながら仕事をすることで、相手だけではなく自分自身も幸せにすることができるのです。