つかみが肝心

「授業において最も大切な部分は?」と問われたら、導入部だと答えます。分かりやすく言うと「つかみ」。学校の先生も塾の先生も、教育を学んだことのある先生たちが口を酸っぱくして言われるのが、この導入部の大切さでしょう。導入部において、その日の授業のテーマにどれだけ興味を持ってもらうことができるか、全体を通したメッセージを伝えることができるか。わずか10分ほどの導入部が、それ以降の授業の行方を決めてしまうと言っても過言ではありません。つまり導入部において、生徒さんたちの心をつかむことができれば、その授業は半ば成功したのも同じなのです。

なぜこれほどまでに導入部が大切か、思いつく理由を挙げていくと、ひとつは生徒さんたちの集中力が最も高い時間帯だからです。授業が始まってから最初の10分はゴールデンタイムと言われ、生徒さんたちが先生の言動を最も良く見たり聞いたりしている時間になります。人間の集中力には限界があり、それ以降はアップダウンの波を描きながら、なだらかに下がっていきます。つまり最初の10分以外は、聞いているようで聞いていない、見ているようで見ていないことが多いということです。多少の個人差こそあれ、これは人間の習性であり限界なので仕方ありません。

 

この導入部で話したこと、見たこと、体験したことは、長期記憶に残りやすいです。私もあれだけ話したのに、覚えてくれているのは、最初の10分に話したことだったなんてこと、山ほどありました。逆に、ラスト10分は短期記憶には残りやすい。その日の授業のアンケートを書いてもらうと、最後にやった内容に対する感想を述べる生徒さんが多いのはそういう理由です。その日は楽しかったはずなのに、寝る前に嫌なことが起こったりすると、今日1日が全て嫌な思い出になってしまうのもそういう訳です(笑)。つまり、重要なメッセージは導入部に込める、そして楽しく締めくくるということです。

 

 

先日行われた望月先生の実務者研修の排せつの授業は、そういった意味において、パーフェクトな導入部でした。ネタバレになるので詳しく書けないのが残念ですが、あっと驚く体験を通し、介護の現状の問題点を指摘しつつも、かといってそれを否定するのではなく、生徒さんたちに感じてもらうことによって、ゆるやかにメッセージを伝えています。なぜ今日この授業を受けるべきなのか、問題はどこにあり、どのようにすれば解決していくことができるのかを、生徒さんたちは自分ごととして考えてくれるはずです。この体験やそこに込められたメッセージは、おそらくいつまでも生徒さんたちの心に残り、生徒さんたちの排せつのケアを少しずつ変えていくのではないかと思います。