他者から見た自分と向き合う

介護職員初任者研修の最終日には、生徒さんたち全員にアンケートをお渡しします。研修全体を振り返りながら、介護職員初任者研修を受けてみた感想から先生方へのメッセージまで、15日間を通して感じたことを率直に書いていただきます。それに対し、実務者研修では、日数が7日間と短いことやその都度の授業に関するフィードバックをいただきたいという理由で、授業ごとにリアクションペーパーを書いて提出してもらうことにしています。アンケートもリアクションペーパーもどちらもそれぞれに良さがあり、初任者研修と実務者研修との違いにもなっていて、生徒さんたちにとっても私たちにとっても、意味のあるものになっていると思います。

生徒さんたちから先生に対するフィードバックをするアンケートやリアクションペーパーは、世間一般的に、今でこそ当たり前ですが、少し昔は考えられないことでした。先生は生徒さんたちよりも上の存在であり、先生が生徒を評価することはあってもその逆はあり得ない。教えられる側が教える側の良し悪しなんて分かるはずはないというのが一般的な考え方でした。私が教育の世界に入ったときもまだ、その名残はありました。

 

しかし、そのスタンスでは先生が自分を客観的に見ることができなくなり、最終的にはおごってしまい、自分を磨く気持ちを失ってしまいます。常に自分自身を高めて行ける、自分に厳しい先生ばかりではないからです。そういった長年の反省もあり、生徒さんたちからみた先生(の授業や人間性)への評価、そして、先生同士からみたお互いの評価という360℃評価が少しずつ教育の現場に浸透していったのです。

 

正直に言うと、私はあまり乗り気ではなかったタイプでした。その深層心理としては、自分が客観的に評価されることが怖い、そして他の先生方と比べられるのが嫌だという気持ちがあったと思います。でも実際にアンケート結果が出てみると、グサッと来るようなこともありましたが、それ以上に生徒さんたちからの温かいメッセージを多く感じられて、胸が熱くなることの方が多かったのです。最初の頃は、他の先生たちと比べ合いをしたりしましたが、次第にそういう気持ちは薄れ、結局は自分自身と向き合うしかないと思うようになりました。ちなみに、私の長所は誠実公平さであり、短所はユーモアの少なさでした。

 

 

それからしばらく時間が経ち、自分が教室の長を任せられるようになってから気がついたことは、良い先生ほどアンケートを毎回良く見ているということでした。アンケートの結果が良いから見たくなるのだろうと最初は考えていたのですが、実はそうではありませんでした。自分自身への評価が気になり、心配や不安があるからこそ、どうしても見てしまうのです。それは真剣に取り組んでいることの証であり、良かった点はさらに良く、改善点は改善をするという形で、良い先生はさらに良くなっていくのです。こうした先生たちの態度を見て、アンケートに乗り気ではなかった過去の私を省みて、人前に立つ先生は良くも悪くも他者の評価をポジティブに受けながら、自分と向き合っていくしかないのだと教えてもらったのでした。