あなたは向いていないと言われたとき

自分にその仕事や職業が向いているかどうかなんて、分からないことの方が多いはずです。向いていないと思っていても、続けているうちに合ってきたり、最初は向いていると感じたのに次第に苦しさが増してきたり。同じ人が同じ仕事に対するときでも、自分や身の回りの状況によって変わってくるものです。むしろ自分には今の仕事が向いていると思って働いている人の方が稀で、ほとんどの人たちは今の仕事は向いていない、もしくは向いている面もあるけど向いていない面の方が多いと思っているのではないでしょうか。

そんな私たちに、時として試練が訪れます。いわゆるクレームというやつです。直接、仕事に対して不満をぶつけられることもあれば、間接的にできていないことを咎められる場合もあります。お客さまからのクレームは、ほとんどのケースにおいて、私たちに大きな気づきを与えてくれるありがたいものですが、ときとして私たちの心を鋭く突き刺してくるような攻撃的なものもあります。それは個人的な中傷であったり、根拠のない批判であったり。お客さまは神様ではありませんので、つい感情的に文句を言ってしまったりするのでしょうが、それを受けた私たちは深く傷つくことになるのです。

 

私も今までたくさんのクレームを受けてきました。かつて大手のスクールにいたときは、今からそっちに行って金属バットで殴るぞと言われたこともありますし、自衛隊の宿舎まで呼び出されて土下座をさせられたこともありました。そういった凶暴なクレームも確かに辛いのですが、それ以上に深く傷ついたのは、自分の資質についてのクレームでした。

 

子どもの教育に携わっていたとき、ある匿名のお母さまから電話をいただき、「あなたは先生に向いていない」と言われたことがありました。その当時、私は本当に自分が先生という仕事に向いているのかどうか分からなくなっていた、ちょうどその時期でした。自分よりも上手く教えることのできる先生たちがたくさん周りにいて、彼ら彼女らのパフォーマンスを見ると、自分には先生という仕事は向いていないのではと考えていたのです。

 

もちろん、外から見れば、普通に教えられているように映っていたと思いますので、そのお母さまはおそらく感情的に私を批難したくて軽率に言ってみた言葉だったと今になれば分かります。しかしそのときは、自分には向いていないと悩んでいた私には反論の余地もなく、深く心に刺さったのです。

 

 

そういう試練を乗り越えられる、またはやり過ごすことができてこそ、本当にその仕事に向いていると言えるのかもしれません。深く傷つけられてもその仕事を続けていると、少しずつ自信がついて、傷も癒えてゆきます。完全に傷が癒えることはないでしょうし、また傷つけられたりもするのですが、それでも前に進んでいくことができるようになります。そもそも仕事をしていて、傷つけられないことなどないのです。できれば傷つけられないようになりたいものですが、たとえ傷つけられたとしても、それを自らの成長の糧として、その仕事に向かっていくことができればそれで良いのです。そしていつか、時間の試練に耐えることで、自分がこの仕事をやらなければ誰がやると思えるぐらいの自信を持てる日が来るのだと思います。