授業が終わって生徒さんたちが全員帰宅し、ひと息ついていると、卒業生さんが訪ねに来てくれました。それ自体は珍しいことではありませんが、驚いたのは彼女が来てくれたことでした。私の感覚では、卒業後に教室に遊びにくるようなタイプではないからです。決して悪い意味ではなく、ケアカレに対する好き嫌いの問題でもなく、自らそのような形で交流を図ろうとする積極的な性格ではないと思っていたということです。彼女が再び教室に来てくれたことが不思議でしたし、何よりもその表情がかつてとは大きく変わって明るくなり、あまり見ることのできなかった笑顔を見ると、同じ人物とは思えないというのが正直な感想でした。
彼女がケアカレに来てくれたのは2年前の夏でした。その当時は、こちらからの声掛けに対しても、ひと言返ってくるだけ、表情は硬く、ほとんど笑顔を見せてくれることはありませんでした。自分の周りに壁をつくっている。そんな雰囲気を全身から漂わせていました。彼女は保育士を目指しており、もしかすると介護職員初任者研修には嫌々通っているのかなと想像したりもしました。
最初の数回の授業は参加してくれたのですが、あるときからプツっと来なくなり、休みが続きました。連絡も来なくなってしまい、半年以上が経ち、私も彼女のことを忘れかけていた頃、「また通いたいのですが…」と電話がありました。もちろんということで、そこから来ては休んでを繰り返しながらではありますが、なんとか最後まで修了してくれたのです。とにかく最後まで通えて良かった。彼女に対する私の率直な感想でした。
せっかく教室に来てくれたのですし、もしかすると何か大変なことが起こって、ケアカレにしかできないような相談をしに来てくれたのかもしれないと思い、下のカフェでゆっくりと話すことにしました。
ちょうどケアカレを修了する頃に、彼ができたそうです。お付き合いをして、その彼が青森に帰って仕事をすることになった。彼は先に向こうに戻って先生をしており、彼女は今年の春に学校を卒業してから青森に行くつもりだそうです。残念ながら保育士の資格を取ることは叶わなかったけれど、向こうで養護施設の職員として働けることになりそうだとのこと。「それは良かったね」と私が言うと、「はい」と笑顔で返してくれました。
ねぶた祭りやりんごジュースのこと、うちにも青森県出身の先生がいることなど、他愛もない話をして、「それじゃあ、そろそろ」と私が切り出すと、彼女もそれに応じて帰る準備を始めました。この時点でもまだ、私はなぜ彼女がわざわざケアカレまで来てくれたのか分かりませんでした。
最後の別れ際、「それじゃあ、向こうでも頑張ってね」と私がさよならを言うと、彼女ははっきりとこう言ったのでした。
「ここで介護職員初任者研修を取れたから、青森で働くことができそうです。ありがとうございました」
その言葉を聞いたとき、私はようやく理解しました。彼女は御礼を言いにきてくれたのだと。一旦はあきらめかけた介護職員初任者研修を最後まで通うことができ、資格が取れたことで、彼について行って青森の養護施設で働くことができる。自分の可能性が広がった。ケアカレで学んだことで、自分の視野が広がった、自分の人生が変わりそうだと感謝を伝えにきてくれたのでした。
「○○さんが頑張って最後まで通ってくれたからだよ」
私は彼女にそう言って別れました。で思いもよらないところで、私たちはさまざまな形でたくさんの人々に影響を与えている。それはすべて私たちの力によるものではないかもしれませんが、私たちが思っている以上に、私たちがきっかけとなることもあるということです。青森で頑張る彼女を応援したい、そして介護の学校をやっていて良かった、と心から思えたひと時でした。