スーツを着ない理由

湘南ケアカレッジを始めた当初から、他の学校でやっていることをやらないと心に決めていました。たとえば、「大きくしない(教室をチェーン展開しない)」、「資格を売らない(教育を提供する)」、「いただきすぎない(利益を最大化しない)」など。差別化ということではなく、これまで学校や教室の運営に関わってきた経験上、そうすることが長い目で見ると正しいと信じているからです。上の3つは、学校として大きく掲げた決めごとですが、実は私の中にだけある、小さな決めごともいくつかあります。そのうちの1つとして、「スーツを着ない」というものがあります。

 

なぜスーツを着ないかというと、生徒さんたちとの間に壁をつくってしまうからです。私がかつて大手の介護スクールに勤めていたとき、男性職員は全員スーツでした。それが当たり前だったので疑う余地もなかったのですが、基本的には事務所でデスクワークをし、たまに教室に足を運んで受講生と対応するときもスーツを着ていました。

 

今から思うと、TPOをわきまえていない姿だったと思います。教室では先生も生徒さんも介護者としての身だしなみを整え、動きやすい格好でいる中に、堅苦しいスーツを着て入っていくのです。私は部外者ですよ、と自ら主張しているのと同然です。わざわざ壁をつくっている、いかにも会社側の人間に対して、生徒さんたちが親近感を抱いてくれるわけはありませんし、本音を言ってくれるとも思えません。それは実習先の施設を訪れるときも同じです。自分がこういう格好をしたいということではなく、相手の姿に合わせるということです。

 

スーツを着ないもうひとつの理由としては、提供できるものに自信があるからです。どのような場面においても、私はあえてスーツを着ないことにしています。冠婚葬祭は別の話ですが、どれだけ重要な商談であっても、偉い人に会うときも、東京都(都庁)に申請に行くときでもそれは同じです。自分たちの仕事に自信があれば、もうスーツを着る時代ではないのかもしれません。見た目ではなく、自分言っていること、行っていることを見て判断してもらえれば良い。むしろしっかり中身を見てもらうためには、スーツという壁は取り払うべきです。

 

 

もちろん、スーツを着ないということは、だらしない格好で良いということではありません。清潔感があって、相手を不快にさせない服装が求められます。きっちりした場面ではジャケットを羽織ってもいいでしょうし、ラフなシーンではポロシャツでも良いかもしれません。そう考えていくと、スーツを着ると決まっている方が、断然楽です。スーツを着ないということは、相手に合わせた姿をしつつ、自分が提供できる仕事の質を高めながら、自分がどう見られているのかということに常に気を配ることが求められるという3重の意味において、実は難易度が高いのです。