「ギフト 僕がきみに残せるもの」

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された元NFL(プロフットボール)選手が、手や足が動くうちに、言葉が話せなくなる前に、これから生まれてくる我が子に対して残したビデオメッセージです。完全なドキュメンタリーであり、だからこそ、どれだけ巧妙に作られた映画でも遥か及ばない、圧倒的な迫力と心を動かす力が溢れています。ALSという恐ろしい病気を扱った映画ではありますが、患者本人だけではなく、家族(介護者)や周囲の人々の想いや葛藤が見事に映し出されていて、言葉にならないぐらい素晴らしい映画でした。正直に言うと、今の世を生きる全ての人々に観てもらいたいですし、介護や福祉の仕事にたずさわる私たちは必見だと思います。

スティーヴ・グリーソンはニューオリンズ・セインツの伝説のヒーロー。彼のプレイは人々の記憶に残り、尊敬と賞賛を集める羨むべき存在でした。その陽の部分があるからこそ、難病ALSと診断されてからの彼や妻ミシェルの絶望や苦闘がより際立ち、さらにそこから再び陽の当たる人生を取り戻そうとするパワーには言葉を失うほどの感動を覚えます。もし自分だったら、彼のように笑えるだろうか、泣けるだろうか、叫べるだろうか、愛せるだろうか、考えれば考えるほど、もっと自分の人生を生きなければと突き動かされるのです。

 

一貫しているテーマは、父親から息子に伝えたいことです。スティーヴは息子のリバースに向け、父である自分の全てを知ってもらいたいという一心で、子どもが生まれる前からビデオ日記を撮り始めました。リバースがそのビデオを観る頃には、スティーヴはもう目以外の身体の全ての筋肉を動かすことができず、子どもを抱きしめることさえできなくなっていることでしょう。「(このビデオメッセージは)ハグだよ」とスティーヴが語ったように、父親からのストレートな愛が込められていて、リバースはハグ以上の何かを感じるはずです。

 

ビデオの中にはスティーヴの父も多く登場していて、信仰に対する考え方の違いを巡ったすれ違いの中、「僕の魂は救われている」とスティーヴが父に心の叫びをぶつけ、父がそれに対して本心で応えるシーンは涙なしに観られませんでした。その他、スティーヴが伝説のバンドPEARL JAMのボーカリストにインタビューしたシーンにおいて、「(小さい頃に離別してしまった)父親の何が知りたいか?」という質問に対し、「どれだけ自分のことを愛していたのかを知りたい」と答えたやり取りは、とても深く印象に残りました。

 

 

僕は何ができるのでしょうか。世界中のALSを始めとする難病で苦しむ人々のために、湘南ケアカレッジに来てくださる生徒さんや卒業生さん、一緒に学校をつくってくれている先生方のために、そして私の子どもや家族、大切な人たちのために何ができるのか。今の僕には答えが見つからず、もしかするとそんなことを問うこと自体が傲慢なのかもしれません。それでも、もしこの映画の中からひとつの答えを受け取るとすれば、いつもそばにいること、そして生きる姿を見せることなのだと思います。ただそうするだけで、私たちは互いに何かができるのではないでしょうか。

 

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8月19日(土)より渋谷、有楽町にて公開中です!